約 1,207,116 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/172.html
(……起きなきゃ…。) せつなは時計に目をやり、のろのろと身をおこす。 頭が重いのも、体がだるいのも既に当たり前になっている。 疲労と睡眠不足、何より毎日神経を磨り減らし精神的に疲弊しきっていた。 今日も一日、笑顔で過ごさなければいけない。 今のせつなには、それは途方もない苦行に思えた。 あの日以来、祈里から時々来るメール。件名も何もない、『来て』ただそれだけ。 その場で削除する。そして、アカルンで移動する。直接、祈里の部屋へ。 遊びに行くわけじゃない。だから玄関も通らず、お母さんに挨拶もしない。 祈里は相変わらすニコニコと穏やかに微笑んでる。 私は…黙って制服のボタンを外し、下着を脱ぐ。 言われるがままに体を開き、事が済めば、また黙って衣服を整えて部屋を後にする。 (もう嫌、……もう、許して…) せつなの懇願を祈里は天使のような微笑みで黙殺する。 言葉で、体で、せつなを責め苛む。まるで、せつなを嘲笑うかのように。 『せつなちゃんが悪いんだからね。』 『せつなちゃん、ラブちゃんにもこんなふうにしてるの?』 『ねぇ、教えて。夕べはどんな事したの?』 そして、必ずせつなにこう言わせる。 好きよ…祈里 わたしも、せつなちゃん……そう言って祈里は私を掻き抱く。 祈里は、虚しくないのだろうか。私が好きなのはラブだけなのに。 その言葉を口にする度にラブを裏切っている事を 思い知らされる。 祈里はそれを分かってて、わざと言わせてるんだろうか……。 祈里は私が好きだと言う。 それなのに、なぜ私が苦しくなる事ばかりするんだろう。 そして夜が来る、また、ラブに抱かれる。 この頃ラブは毎晩せつなを求めてくる。それも飽くことなく、何度も。 昨夜も明け方まで眠らせて貰えなかった。 ラブは、何か気付いている。何処までかは分からないけれど。 せつなの体をまさぐりながら、その瞳が時々何かを観察するような光を帯びる。 そう、せつなにラブ以外の痕跡が残っていないかどうか。 愛撫も以前の慈しむような優しさが減った。 まるでせつながどこまで耐えられるか試すように、敏感な部分にわざと 歯や爪を立て、乱暴につねる。 既に達しているせつなの体をお構い無しに休む間もなく弄ぶ。 それでも、せつなはラブを拒めない。 それでも、ラブに触れられるのが嬉しいと感じる。 だって体を重ねていれば、まだ愛されている気がするから。 まだ嫌われていない。まだラブの側にいてもいいんだ、そう思えるから。 「…好き、…ラブ」 眠っているラブに体を擦りよせ、そっと囁く。 今は、ラブの目を見られなくなってしまった。 ラブが好き。ラブだけが好き。そのはずなのに、体は与えられる刺激を無視出来ない。 意志とは関係なく、体は祈里の愛撫に応えてしまう。 指で唇で敏感な部分を責められると、噛み殺す事の出来ない嬌声が漏れる。 ラブじゃないのに……。 自分がとても汚らわしいものに成り下がってしまったような気がする。 ラブだけのものじゃ無くなってしまった。 もう、ラブに愛してもらう資格なんかない。 そう思うのに……。 離れられない。この温もりを失うのが怖い。 そして、ラブがどんな気持ちで自分を抱いているのか…。 ラブは気付いてる。なのに何も言わない。 責めることも、問い質すこともしない。 皆の前では変わらぬ態度。朗らかに笑い掛け、冗談を言う。 そして、二人きりになると黙ってせつなの体を貪る。 せつなには、わからなかった。 ラブの気持ちも。祈里の気持ちも。 (せつなって隠し事出来ないんだな。) 祈里の家で具合が悪くなり、そのまま泊まる事になった翌日。 せつなは傍目にも分かるほど蒼白い生気のない顔で帰ってきた。 お母さん、慌てて着替えさせてベッドに入らせてた。 せつながあんなふうに具合が悪くなるなんて家に来て初めてだったから。 薬は?病院行く?世話をやくお母さんを見て、祈里の家に泊まるって聞いて 何だかモヤモヤしてた自分が恥ずかしくなった。 ちょっと嫌な予感がしてたんだよね。 でも本当に辛そうな顔で横たわってるせつなを見たら、祈里にも申し訳なく思った。 心配して泊めてくれたのに、変なヤキモチ焼いちゃったって。 結局、その時感じた嫌な予感はあたってたんだけど。 その日からせつな、明らかに態度がおかしくなった。 家族皆でいる時や学校で友達とお喋りしてる時のせつなはいつもと変わりなく見える。 でも二人きりになると、あからさまに目も合わせようとしない。 それ以前に極力二人きりにならないようにしてるみたいだ。 そしてそれ以上に、祈里に対する態度が不自然過ぎた。 祈里を見ると表情が固くなる。絶対に隣に座らない。 傍目には普通に話しているようにも見えた。でもそれは祈里が一方的に話し掛け、 せつなが返事をしてるだけだった。 あれでは『祈里と何かありました』と言ってるようなものだ。 その『何か』を考えようとすると、いつも途中で思考が止まる。 だって、どんな道筋を辿っても行き着く場所は一つしかなかったから。 (せつながブッキーと……) 古典的な手段だな…と思いつつ、ラブはせつなのいない隙に携帯に手を伸ばす。 今までは恋人のメールを盗み見る、なんて話は軽蔑してた。 (コソコソせずに話し合えはいいじゃん!) こっそり覗くなんて相手を信頼してない証拠。そんなだから不安になるんだよ! 実際に友達との恋愛話のなかでそんな事を言ったような気もする。 それが、実際はどうだ。自分を嘲笑いたくなる。 (………ビンゴぉ!ってやつ?) 几帳面なせつならしく、メールはきちんと名前別にフォルダに振り分けられている。 ラブ、美希、他にも学校の友達や家族。どれも他愛ない雑談や連絡事項。 そして、祈里。直接的なメールは何もない。 むしろ、不自然な程に何もないのだ。 メールはあの日を境に今日までぷっつりと途絶えている。 恐らくせつなが帰った直後に送られたであろう、 『昨日はありがとう。またね。』 これも、少しおかしい。せつなは体調を崩してたはずなのに、それを気遣う 様子は微塵も見られない。着信、発信もゼロ。 そして、今日の午後に一件だけ。 『来て』 ただ、それだけ。 ドクン…と心臓が脈打つ。メールの来た時間。せつなはその直後にいなくなってる。 そして、まだ帰らない。 せつなは今、祈里といる。予感ではなく確信。心に冷たい水が染み込んでくる。 祈里がいつもせつなを見てた事は分かってた。憧れるような、熱っぽい視線。 あたしに対しては嫉妬と羨望の混じった視線。 あたしは…祈里に優越感を抱いていたのかもしれない。 (仕方ないじゃない。せつなは、あたしが好きなんだもん。) せつなは今までに会ったどんな子とも違う。そんなせつなに甘い憧れを 抱くのも仕方ない。 いずれ時間が解決してくれる。だってせつなだって祈里が大好きなんだから。 ただし、友達として。 せつなは今何してるの?今まで、あたしといない時間何してたの? 焦燥感に身が焼かれる。今すぐせつなを問い詰めたい衝動に駆られる。 けど、実際にせつなを目の前にしたら、何も言えないだろう。 せつなが、あたしの目を見られないように。 あたしはせつなに何も言わない。せつなもあたしに何も言わない。 ただ、体を重ねる。焦燥感を忘れようとするかのように。 せつなは何も言わない。拒む事も、抵抗もしない。あたしが何をしても。 時々、せつなは物言いたげな視線をよこす。 でも視線が絡む直前、自分から目をそらす。 たぶん、せつなはあたしからの言葉を待ってる。 『何があったの?』 そう聞けばせつなは話してくれるだろう。せつなは、あたしに嘘はつけない。 組み敷いたせつなの体が熱い。この熱だけが心を引っ掻く焦燥感を忘れさせてくれる。 まだ大丈夫。せつなはあたしを求めてくれてる。 まだ、愛してくれてる。そう思えるから、何度も何度もせつなを求める。 時間が深夜を過ぎても。せつなの体が、とうに限界を迎えてるのが分かってても。 うとうとと微睡みながら、せつながあたしの髪を撫でているのを感じた。 この上なく大切なものに触れてるような、愛しむような優しい指。 こんなふうに、せつなからあたしに触れて来るのは久しぶりのはず。 意識ははっきりしてきたけど、目が開けられない。起きてる事が分かったら、 もう撫でて貰えない気がして。 「…好き、…ラブ…」 吐息のような囁く声。でもはっきりと耳に届いた。 あたしを起こさないようにか、そっと身を寄せぴったりとくっついてくる。 以前と変わらぬ優しい温もり。 (ホントに…?…せつな) 好き、確かに彼女はそう言った。 涙が出そうになる。 (信じても、いいよね……?) せつなはあたしが好き。あたしだけが好き。 あたしがせつなを好きなのと同じように。 ちゃんと、信じよう。逃げるのはやめよう。信じなきゃ、ダメだ。 (あたしは、覚悟を決めなきゃならない。) せつなの寝息を感じながら、そう、思った。 3-456へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/189.html
四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode4:寄せる波、返す波 風が出てきたのか、窓ガラスがガタガタと音を立てる。 私はそっと起き上がり、ベッドから抜け出した。 二段ベッドの、私の上の段にはラブ。 隣りのベッドの、上の段には美希。下の段にはブッキー。 昼間の練習で疲れたのだろう。三人とも、ぐっすりと眠っている。 私は静かにガラス戸を開けて、ひとりベランダに出た。 昼間とは違う、少し冷たい感触の木の手摺りから身を乗り出すと、 今は夜と同じ色の私の髪を、不思議な匂いのする風が撫でる。 昼間と違って、黒々とした水を湛える海。 まるでぽっかりと巨大な穴が開いたように、闇は遠くなるほど濃くなって、 空との境界すら、よくわからない。 この世界では、地表の70%は海だと、本で読んだ。 人々は、30%しかない陸地に寄り添って暮らし、 その周りを、膨大な量の水が取り巻いているのだという。 強大な水の力の暴走で、大きな不幸に見舞われたことも、 太古の昔から現在まで、度々あったらしい。 全てを見渡せないほどに、果てしなく広く、 想像すらできないほどに、限りなく深く、 人間の力では太刀打ちできない、この世界での圧倒的な存在。 それなのに――私は不思議な気持ちで、目の前に広がる景色を見つめる。 空には少しかすんだ月と、きらめく無数の星々。 海を抱くように取り囲む山肌には、ポツポツと見える民家の灯。 空と地上の、小さいけれど確かな光たちに答えるように、 海の上には白い波が、かすかに浮かんでは消え、また浮かんでは消える。 密やかで、穏やかで、何だかほのぼのとしたあたたかさすら感じる光景。 かつて忠誠を誓った、絶対者を思い出す。 この海と同じように、私に見えていたのは、きっとほんの一部。 いや、本当は全く見えていなかったのかもしれない。 精一杯尽くしても、この身を投げ出しても、 想いは虚しくすり抜けて、決して届くことはなかった。 圧倒的な存在だから、誰の手も届かない。そう思っていた。 だけど、海は・・・。 一匹の蟹が、まるで波と遊んでいるように、砂浜をよちよちと歩いている。 私は夜風に吹かれながら、かろうじて見えるその小さな影に、しばらく目を凝らしていた。 四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode4:寄せる波、返す波 「オッケー。じゃあ、午前中はここまで。」 ミユキさんの言葉で、アタシとラブとブッキーは、いっせいにへたり込む。一緒に座り込みかけたせつなが何とか堪えて、水の入ったペットボトルを、人数分持って来てくれた。 さすがに息は荒いけど、アタシたちよりは断然、体力のある彼女。これでダンスはこの合宿で初めてやったって言うんだから、ホントに驚いてしまう。 「せつなちゃん、よく頑張ったわね。ちゃんと水分採って、昼休みはゆっくり休むのよ。」 ミユキさんの言葉に、はい、と笑顔で頷いて、せつなは額に浮かんだ玉のような汗を、タオルで拭った。 ダンス合宿も今日で五日目。明日はスタジオの掃除をして、午後にはここを発つことになっている。だから事実上、ここで練習するのは、今日が最後だ。 二日目からレッスンに加わったせつなは、初心者ということで、昨日までは別メニューのレッスンを受けていた。で、晴れて今日からアタシたちと合流して、一緒に踊っている。 数カ月先に始めたアタシたちからすれば、たった三日で肩を並べられるなんて、正直複雑・・・というのが、普通の反応だと思うのだけど・・・。 「せつな、凄いね!もうあたしたちとほとんど同じように動けてるじゃん。」 少なくとも、自分のことのように得意げにそう言うラブには、そんなこと関係ないらしい。 「ホント、せつなちゃん、とっても上手だよね。わたしも頑張らなきゃ。」 ラブの向こうから笑顔を見せるブッキーは、そんなことより、せつなを「せつなちゃん」と呼ぶこと自体が、嬉しくて仕方のない様子だ。 そう言うアタシだって、せつなが隣りで一緒に踊ってるっていうだけで、何だかとても嬉しい・・・ま、まぁ、しばらく完璧にダンスをサボっていたアタシたちが、そもそもエラそうなことは言えないのよね。 「ありがとう。でも、まだまだよ。」 遠慮がちにほほ笑むせつなに、ラブが力強くかぶりを振る。 「そんなことないよぉ。もう、あたしたちと同じように踊れてるもん。ねっ、そうですよね?ミユキさん!」 「そうね。まだ完全とは言えないけど、初心者とは思えないくらい、動きはスムーズよ。みんなとも、動きは合ってきているわね。」 「ほら、ねっ!」 勢い込んでせつなの顔を覗き込むラブに、ミユキさんが苦笑する。 「ほらほら、早く食堂に行かないと、お昼ご飯が冷めちゃうわよ。」 「はーい!お腹空いたぁ~。」 食事と聞いて、途端に勢い良く立ち上がったラブに押されるように、せつなとミユキさんがスタジオを出ていく。クスリと笑って後を追うブッキー。アタシもその後に続きながら、心の中で、少しだけ首をひねった。 さっきの、せつなのダンスを評したミユキさんの言い方が、何か・・・いつもの、オッケー!と力強く言ってくれるときとは、少し違っていたような気がしたから。 ☆ その日の午後のレッスンは、それまでとはまるで違ったものになった。昼休みを終えてスタジオに戻ってきたアタシたちに、ミユキさんがこう言ったのだ。 「午後は、いつものレッスンじゃなくて、課題をひとつやってもらうわ。あなたたちが四つ葉のクローバーとしてやっていけるかどうか、その最初のテストだと思って。」 「え~っ!?テ、テストだなんて・・・。」 「せつなはまだ、ダンスを始めたばかりなんですよ?」 「もし出来なかったら・・・どうなるんですか?」 黙ってミユキさんを見つめるせつなと、口々に不安と不満を口にする、ラブとアタシとブッキー。そんなアタシたちを見渡して、ミユキさんは少しだけ、その目の光をやわらげた。 「安心して。出来なかったらもうレッスンしないだなんて、そんなことは言わないわ。でもね、これは今だからこそ、やってほしい課題なの。」 ミユキさんの熱のこもった語り口に、その場の空気が、ぴんと張り詰める。 「このダンス合宿の最初の夜に、あなたたち四人の心はひとつになった――そう言ってたわよね、ラブちゃん。ならば、それを私に見せてほしいの。」 「ミユキさんに?どうやって・・・。」 不安げに眉根を寄せるラブに、ミユキさんはいつものように、ビシッと人差し指を立てて、きっぱりと答えた。 「もっちろん、ダンスでよ!」 「う~ん。ミユキさんの課題、難しいよぉ。」 スタジオの隅で膝を抱えて、ラブがハァ~っと溜息をつく。 「難しいって言ってばかりじゃ、何も始まらないじゃない!でも・・・」 「どこからどう始めたらいいのか・・・」 ラブを励ましてはみたものの、その先が続かないアタシと一緒に、ブッキーもうつむいた。 ミユキさんから出された課題――それは、四人でひとつのテーマを決めて、それを創作ダンスで表現してみせる、というものだった。 「この際、技術的なダンスの出来はあまり問わないわ。長さも、どんなに短くても構わない。音楽も無くてもいいし、必要なら、このスタジオにあるものを自由に使ってくれていいわ。」 課題に続けて、細かな指示をてきぱきと伝えてから、ミユキさんはアタシたちの顔を、順繰りに見つめた。 「ポイントは、ひとつのものを四人でいかに表現するか、ということ。そのために何が大切か・・・それは、あなたたちで見つけるのよ。期限は明日の朝まで。素敵なダンスを見せてもらえるのを、楽しみにしているわ。」 そのときの、キラリと光ったミユキさんの瞳を思い出して、アタシは顔を上げた。 「とにかく、何か始めよう。やっぱりまずは、テーマを何にするか、よね。」 アタシの言葉に、せつながうん、と頷く。 「そうね。テーマを決めて、それを私たちで表現するんでしょう?だったら、私たちが表現できるものでないと。」 「うん。でも、わたしたちに表現できるものって、何かな。」 ブッキーが小首をかしげると、ラブが、そうだっ!と満面の笑みで立ち上がった。 「やっぱりさ。せっかく海のそばに来てるんだから、テーマは海にしようよ!」 「海、ねぇ。」 いかにもラブらしい提案だと思いながら、何となく相槌を打ったアタシは、 「ちょっと待って、ラブ。」 隣りから聞こえてきた戸惑ったような声に、顔を上げた。 声の通りに、信じられないという表情のせつなが、ラブを見つめている。 「海なんて・・・どうやって表現するの?だって、海ってたくさんの水の集まりだし、それにあんな大きいものを・・・」 「い、いや・・・あのね、せつな。」 真剣に悩みながら言葉を紡ぐせつなに、アタシは慌てて声をかけた。 「表現するっていうのは、何もそれを丸ごと体で再現しろ、って意味じゃないのよ。そんなこと言ったら、海を表現するなんて絶対に無理でしょ?」 「え、違うの?」 キョトンとした顔で問い返してくるせつなに、当り前でしょう!という言葉を何とか飲み込む。本人は至って真面目なのだから、そう言うのは酷というものだ。考えてみれば、音楽も踊りも無かったというラビリンスでは、何かを表現するということも、まるで無かったのだろう。 (仕方がない。ここはモデルという、れっきとした表現者を目指しているアタシが、ちゃんと説明しなきゃならないわよね・・・。) アタシは顔では何とか笑顔を保って、頭の中では必死で言葉を選ぶ。 「そうじゃなくて、ええと・・・そのもののエッセンスっていうか、そのものから受ける印象や、そこから生まれる感情を、表現するのよ。」 「印象・・・。感情・・・?難しいのね。でも、それを見た人が、海だってわからなくちゃいけないんでしょ?」 「うーん・・・別に、絶対にわからなきゃいけないってわけじゃないんじゃないかな。同じ海でも、見る人によって感じ方は色々だもの。要は、アタシたちの海を表現すればいいっていうか・・・」 「もぉ~、美希たん!難しいことごちゃごちゃ言ってないで、まずは実際に海を見に行こうよぉ。そうすれば、何を表現すればいいか、きっと見つかるよ!」 アタシのしどろもどろの解説は、しびれを切らしたラブの言葉であっさりと打ち切られた。ホッとしたというか、ちょっと残念というか・・・。 「ラブちゃん、結局、海に行きたいだけだったりして。」 アタシたちの様子をおとなしく見ていたブッキーが、相変わらずのんびりと、だけど的確につっこむ。 「いやぁ、あはは~・・・とにかく、実物を間近で見るのが一番!」 結局ラブに押し切られて、アタシたちは海へと向かったのだった。 ☆ 「わっはぁ~!やっぱり、すっごくきれい~!」 一気に波打ち際まで駆けていくラブ。そんなラブに呆れた顔をしながらも、好奇心を抑えきれない様子のせつなが、それに続く。ブッキーは二人をニコニコと眺めながら、一歩一歩確かめるように、砂浜を歩いている。 焼けつくような、という言葉がぴったりの、真夏の太陽がアタシたちの真上にある。あくまでもレッスン中ということで、アタシたちはダンス服のまま。もっとも足元だけは、アタシとブッキーは素足にビーチサンダル、ラブとせつなは素足にダンスシューズを履いている。あんまり人に見せたい恰好じゃないけど、この浜は遊泳区域ではないらしく、この季節だと言うのに、人は全然いなかった。 「こんなに海のそばにずっと居たのに、レッスンで忙しくて、ほとんど来られなかったものね、美希ちゃん。」 「え・・・ええ、そうね。」 アタシはと言えば、ここへ来てから突然あることを思い出して、途端に歩みが遅くなっていた。 キラキラ光る青い海、白い砂浜・・・そう、あのときも確か、こんな光景が広がっていた。そしてそこに潜んでいた、赤黒くて、柔らかい・・・ (ひっ!) 「どうしたの?美希ちゃん。」 「な・・・なんでも、ないわ。それより、は、早く始めないとね。ラブ!せつな!」 アタシは、かぶっていた帽子のつばに隠れるようにしてブッキーの視線から逃れると、まだ波と戯れている二人に声をかけた。 「それで、海をどう表現するか、どうやって決めればいいのかしら。」 砂浜に座り込んだアタシたちは、せつなの言葉に、それぞれじっと考え込む。 「まず、海って言われて何を思い付くか、挙げていったらどうかな。そこからイメージを膨らませたらどうかしら。」 少し遠慮がちにそう言ったのは、ブッキーだった。それを聞いて、ラブが早速指を折り始める。 「えーっと、海って言えばぁ・・・広い、大きい、青い、あと・・・しょっぱい、気持ちいい、楽しい!」 「ラブったら、形容詞ばっかりじゃない!それから、砂浜、燈台、夕陽、なんてのもあるわね。」 「たくさんのお魚さんたちに、貝類、プランクトン、それに、クジラやイルカみたいな哺乳類や、軟体動物と呼ばれるイカやタ・・・」 「ブ、ブッキー!!・・・生き物はちょっと、難しいんじゃない?」 「え?ダメ?」 ダメっていうか、勘弁して。・・・困った、何だかアタシ、だんだん笑顔が引きつってきた気がする。 「えーっとぉ、そしてここから、どうすればいいんだっけ?」 「挙げてみたはいいけれど、何だかその先につながらないね。」 幸いアタシの様子には気付かず、困り顔のラブとブッキー。やがて、 「あっ、そうだ!」 ラブが目を輝かせて、せつなに向き直った。 「ねぇ。せつなは今度の合宿で、海を初めて見たんだよね。ねえねえ、どう感じた?」 「え・・・私?」 せつなが驚いたように目を見開く。やっと立ち直りかけたアタシも、言葉を続けた。 「そうね、第一印象って大事だもの。せつな、聞かせてくれる?」 ラブとアタシの顔を交互に見つめてから、せつなは砂の上に視線を落とす。そしてしばらく考えてから、ぽつりと言った。 「とても・・・驚いたわ。」 「海って、図鑑の写真でなら見たことがあったんだけど、写真じゃ広さは伝わらないのね。 こんなに一面、見渡す限り水面が広がっていて。それが生き物みたいにうねったり、凄くキラキラ光っていたりして。ホント、まるで想像を超えていたわ。」 口元に柔らかな笑みを浮かべて、ゆっくりと静かに語るせつな。その瞳も、海に負けないくらいキラキラと輝いている。 「とても雄大で、きれいで、そして・・・何だか不思議な感じがした。」 「不思議?海が?」 ブッキーが、表情まで不思議そうにしながら問いかける。 「ええ。海って、陸地の倍以上も広いんでしょ?そんな、この世界で一番大きな・・・圧倒されるくらい大きな存在が、こんな近くにあるんだもの。」 「う~ん、まぁ、海はこのずーっと遥か先まで続いているんだから、近いって言っても、それはごく一部だけどね。」 せつなの言いたいことがよくわからないまま、アタシはそう言って、彼女の横顔を覗き見る。 せつなは人差し指を唇に当てて、少し難しい顔をして考え込んだ。その姿は、懸命に言葉を探しているようにも、続きを言おうかどうしようか悩んでいるようにも見えて・・・。 やがて唇から指を離すと、せつなは再び、静かに口を開いた。 「私ね。何よりも強くて大きな存在は、簡単には手の届かないものだって、ずっと思ってたの。」 あ、と思った。 この世界では違うのね。そう言うせつなの笑顔は、何だか痛みをこらえているようにも見えて、アタシは何も言えなくなる。 「勿論、天候が悪くなって海が荒れ狂えば、大変なことになるって本で読んだし、ニュースでも見たわ。 でも、普段の海を、みんな怖がったりしない。こうやって眺めたり、遊んだり。魚を獲ったり、潜ったり、船で渡ったりもするのよね。海の方だって、普段はこんなにきれいで穏やかで・・・。 海は巨大な水域で、意思なんか無いってわかってるけど、でも、それが・・・何だか不思議で・・・。ごめんなさい、上手に言えないけど。」 最後はうつむき加減で、せつなが小さな声でそう締めくくった、そのとき。 「わっ!みんな逃げて!!あの波、ここまで来そうだよっ!」 ラブが突然大声を上げて、立ち上がった。 「キャー、ホントだ!」 「せつな、早く立って!」 事態がよく飲み込めないでいたらしいせつなが、アタシの声に慌てて立ち上がる。 浜の表面の砂を巻き上げ、巻き込むようにしながら迫ってくる波。慌てて駆け出したところで、アタシは何かにつまづいた。片方のビーチサンダルが、すぽんと脱げて砂の上に残る。 「あっ!」 振り返ったアタシの目の前で、波はサンダルを攫って、そのまま沖へと持っていこうとする。と、とっさに動けないでいるアタシの隣りから人影が駆け出して、波間からサンダルをさっと掬いあげてくれた。 「ありがとう、せつな。」 嬉しそうに微笑みながら戻ってくる彼女に、アタシは歩み寄る。 「あ、あ・・・美希たん!せつな!そこ、危ないって!」 「二人とも、次の波が来るわっ!」 「え?・・・ちょ、ちょっと待って~!」 待ってと言われても波は待ってくれない。慌てるアタシに、ラブとブッキーが駆け寄る。片方しかサンダルを履いていないせいで、うまく走れないアタシの手を、せつなが引っ張る。 「わぁっ!!」 そのまま飛び込むようにして砂浜に倒れ込んだアタシたちの足元を、波はからかうように洗って、また去って行った。幸い服までは濡れなかったけど、全員砂まみれだ。 「やったな~!」 何を思ったのか、ラブが砂を払って立ちあがる。そして、ぐっしょりと濡れたシューズを脱ぐと、遠ざかる波に向かって、裸足で駆け出した。 「わぁぁぁぁぁ~!!」 大声を上げて、引いていく波を追いかけるラブ。再びザザーッと押し寄せる波から後ずさって逃げ、波が引いていくと、またそれを追いかけて駆けていく。 「あたしたちはぁ、負けないんだから~!」 ザザー・・・ 「この先、どんなことがあったって~!」 ザザー・・・ 「みんな一緒に、笑って、楽しいこと、いーっぱいして」 ザザー・・・ 「みんなが、大好きだって、想いを」 ザザー・・・ 「ちゃんと、伝えて、ちゃんと、受け取る!」 ザザー・・・ 「そして・・・そして!」 ザザー・・・ 「みんなで、しあわせ、ゲット、だ、よ~!!」 肩で息をしているラブの足元を、波が洗って、またゆっくりと去っていく。その波の動きが何だかやさしく見えて、一瞬、視界がぼやけた。 泣きながらせつなと戦う、ラブの姿が浮かんだ。 「ブッキー」「せつなちゃん」と初めて呼び合った、二人の笑顔が浮かんだ。 少し遠い眼をして、幼い頃のアタシの話をしてくれた、ママの顔。 医者になりたいんだ、と目を輝かせて語る、和希の顔。 メロンが好物だって、覚えていてくれたのか・・・そう言って、メロンドーナツを嬉しそうに頬張った、パパの顔。 人生の荒波ってヤツを知るには、アタシたちはまだまだ子供だ。だけど、そんなアタシたちだって、毎日様々な波に出会っているのかもしれないって、ふと思った。 人から人へと伝えられる波。感情の波、想いの波、信頼の波。それを受け取ったり返したりしながら歩いていくことが、人と生きていくってことなのかもしれない。 そして、みんなで一緒に一つの想いをぶつければ、ひとりじゃ超えられない大きな波だって、超えられるのかもしれない。もしかしたら、せつなの言う手の届かないものにだって、いつか手が届くかもしれない。 「アタシたちも行くわよ。」 アタシはそう言って、履いていた片方だけのビーチサンダルを脱いだ。 「あのね、せつな。海のイメージって、もうひとつあるの。それは、思いのたけを思いっきり叫べる場所だ、っていうこと。」 「え・・・ラブみたいに?は、恥ずかしいわよ。」 「アタシたちしか居ないんだから、遠慮しないの!」 そう笑いかけてせつなの肩を叩くアタシの向こう側から、 「せつなちゃん、行こうよ。」 意外にも、ブッキーがそう言って、せつなの手を取った。 引いていく波を追いかけて、ラブの隣りに並ぶ。 「もっちろん、アタシも負けないわ~!」 「わたしだって~!」 ザザーッと迫ってくる波から四人で逃げ、また追いかける。 「だって、アタシたち、完璧だもの~!」 「うん!わたし、信じてる~!」 「ほら、せつなも。」 迫ってくる波を避けながら、アタシはまた彼女の肩を叩く。もう、と言うように、せつなは赤い顔をして、恨みがましい目をこちらに向けた。 次の瞬間、砂浜を走っているとは思えない速さで、せつなが波へと向かった。アタシたち三人も、慌てて追いかける。 「せいいっぱい、がんばるわ~!」 「おー!!!」 ザザー・・・ 押し寄せた波はあたたかく、アタシたち四人の足を、静かに洗った。 ☆ 次の日の朝のダンススタジオ。アタシたちは腕組みをしているミユキさんを前にして、横一列で並んでいた。 ダンシング・ポットから、曲が流れ始める。昨日の夕方、スタジオにあった曲を聴けるだけ聴いて、アタシが選んだ曲だ。 はじめはゆっくりとしたテンポ。左右にステップを踏みながら、両手を波のように、ゆったりと動かす。時々ひらひらと指を動かすのは、波しぶきの表現。ブッキーのアイデアだ。 くるりとターンをして、今度は前後への小さなステップを加える。手を次第に大きく動かして、波の高まりを表現する。 やがて曲調が変わるのに合わせて、列の中側にいるラブとせつなが、パンパンと手を打ち鳴らす。続けて外側にいるアタシとブッキーが、思い切りジャンプ。それを皮切りに、激しくなる動き。 曲のテンポが上がるにつれて、ひとりひとり動きをずらして、バラバラにステップを踏む。荒れ狂う海の表現。これは、せつなのアイデアだ。 やがてラブが、さっと右手を前方に伸ばす。アタシたちはその指先に視線を合わせ、ひとり、またひとりと、その手に手を重ねていく。せつなが、ブッキーが、そしてアタシが。 ラブがみんなの顔を見まわして、うん、と頷く。それを合図に、アタシたちは半身になって、前後に両腕を広げた。 再び穏やかになる音楽に乗せて、四人の腕がゆっくりと絡み合う。アタシの左腕が、せつなの右腕に。せつなの左腕が、ラブの右腕に。そしてラブの左腕が、ブッキーの右腕に。 ゴクリと唾を飲み込む。ここは上手くいかなくて、昨夜、何度も練習したところだ。 アタシはみんながちゃんと腕を組んだのを確認してから、右腕から左腕へと、ゆっくりと腕を動かした。 アタシからせつなへ。せつなからラブへ。ラブからブッキーへ。四人の間を、ゆっくりと駆け抜ける波。まだミユキさんからは習っていないけど、ウェーブと呼ばれるダンスの手法。ラブが絶対にやりたいと言って、取り入れたアクションだった。 今度はブッキーからラブへ。ラブからせつなへ。そして、せつなからアタシへ。返ってきた波を受け取って、アタシは静かに腕を下ろす。 曲が終わり、アタシたちは息を弾ませながら、ミユキさんに礼をした。 パチパチパチ・・・。 拍手の音が聞こえてきて、アタシたちは顔を上げる。相変わらず瞳に鋭い光を宿したミユキさんが、口元にやさしい笑みを湛えて、アタシたちを見つめていた。 「みんな、とても良かったわ。せつなちゃん。」 「はい。」 不意に名前を呼ばれて、せつなの肩がビクリと震える。 「やってみて、どうだった?」 「とても、楽しかったです。」 「そう、良かったわ。踊っているあなたの表情、とても生き生きしてた。」 「あ・・・ありがとうございます!」 嬉しそうに、照れ臭そうに、うつむくせつなの横顔を見て、アタシは昨日違和感を覚えたミユキさんの言葉の意味が、何となくわかったような気がした。 考えてみれば、アタシは踊っているとき、横に居るせつなの動きは感じていても、どんな表情で踊っているかまでは、見たことがなかった。ミユキさんが、「動きは」合っている、と言ったのは、せつなの表情を見てのことだったんだろう。 いくら息が合っていても、動きが合っていても、感情の表現がバラバラだったら、見ている人に一体感を与えられるはずがない。そして、表現というものは、説明して分からせるものではないのだろう。それはアタシも、昨日感じたことだった。 ミユキさんはアタシの顔を見て、まるで心を読んだかのように小さく笑うと、みんなの方に向き直った。 「みんな、よく覚えておいて。ダンスをみんなで踊るためには、呼吸を合わせることが大切だって、いつも言ってるわよね。 でも、もっと大切なのが、ハートをひとつにすることなの。そうでなければ、みんなで踊ることなんて出来ないし、見ている人に、パワーや感動は伝えられないわ。」 ミユキさんは、そこでニッコリと満面の笑みを浮かべる。 「その点、今日のあなたたちのダンスは、とても良かった。技術的にはまだこれからだけど、新生クローバーのハート、しっかりと見せてもらったわ。」 「やったぁ!」 ラブがその場で飛び跳ねて、無邪気に喜ぶ。やれやれ、と肩をすくめたアタシと目を合わせて、せつなが相変わらず、照れ臭そうに笑った。 「さて。」 スタジオにかかっている時計をちらりと眺めて、ミユキさんが表情を引き締める。 「まだ少し時間があるから、これからウェーブの特訓よ。」 「えっ、今からですか?」 ブッキーの怪訝そうな声に、ミユキさんはいつものように腕組みをして、ええ、と頷いた。 「基礎からちゃんと覚えないと、今のままではウェーブとは呼べないもの。うまく出来るようになったら、今度の曲の振り付け、少しアレンジし直そうかと思っているんだけど、どう?」 思ってもみなかった提案だった。一斉に笑顔になったアタシたちに、反対する理由なんてあるわけがない。 「はいっ!やります!」 勢い込んだ四人の声はぴたりと揃って、スタジオの壁が一瞬、ビリッと震えた。 ☆ 「長い間、お世話になりました~!」 見送りに出てきてくれた管理人のおばさんに、アタシたちは深々と頭を下げる。五泊六日のダンス合宿も、とうとうおしまいだ。 「今度はもう少し、余裕を持っていらっしゃいよ。熱心に練習してたから、こんなに近いのに、海にも行かなかったんじゃないの?」 おばさんのやさしい言葉に、ラブが元気よく答える。 「いいえ、ちゃんと行きました。すっごく楽しかったです!」 「あら、そう。それは良かったわ。ここから少し行ったところの海岸では、地引網の体験をさせてくれるところもあるのよ。今度来たときは、行ってみるといいわ。」 「へぇ。何が獲れるんですか?」 今度はブッキーが、興味津津だ。 「色々獲れるのよ。アジやスズキや・・・それにたまには、タコが網にかかることもあるんですって。」 「ひっ!」 思わず喉の奥から小さな悲鳴が漏れて、アタシは口を押さえた。 「美希、どしたの?」 「な・・・なんでもないわ。暑いわね、今日も。」 不思議そうにこちらを覗きこむせつなから、アタシはどきまぎと目をそらす。少し遠くで騒いでいる波の音が、何だか笑っているように、やけに明るく、耳に響いた。 ~終~ ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode5:笑顔の種へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1208.html
『フレッシュな悪夢』/Mitchell Carroll アロマ「赤アロマロマ青アロマロマ黄アロマロマー!」 ブッキー「すごーい!!」 アロマ「えっへんロマ!つづきまして、赤ピーマンロマ青ピーマンロマ黄ピーマンロマー!!」 せつな「やめてッ!!!」 アロマ「ロマ……?」 ラブ「せつなはね、ピーマンが苦手なの。せつな、怖くないよ、怖くない。ねっ?」 せつな「ありがとう、ラブ。もう大丈夫よ」 アロマ「申し訳なかったロマ……」 はるか「でもほら、有名な言葉、あるよね?えーと、“つまづいたって"……あれ? “頭振り乱したっていいじゃないか、ニンジンだもの――あいだマナ”、だっけ?」 ラブ「うわぁーーーッ!!!」 はるか「え……?」 せつな「ラブはね、ニンジンが苦手なの。ラブ、怖がらないで。落ち着いて深呼吸するのよ」 ラブ「ありがとう、せつな。もう大丈夫だよ」 はるか「以後、気をつけます……」 きらら「てゆーかさ、アロマ、クリスマスパーティーで早口言葉ウケて以来、調子に乗ってあっちこっちで それ披露してんじゃん。もういい加減、“耳にタコ”って感じ」 美希「キャアア゛ーーーッ!!!」 きらら「へ……?」 ブッキー「美希たんはね、タコが苦手なの。大丈夫よ、美希たん。耳にタコなんて付いてないから」 美希「ありがとう、ブッキー。もうアタシ完璧よ」 きらら「す、すみませんでした……」 パフ「そういえば、おにいちゃんたら、おんなのこをみて、はなのしたでれ~っとのばしてたパフ」 ブッキー「いやぁーーーッ!!!」 パフ「パフ……?」 美希「ブッキーはね、フェレットが苦手なの。“でれ~っと”が“ふぇれ~っと”に聞こえたみたい」 パフ「そんな……むりやりパフ~」 おしまい
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/658.html
――1月―― 祈里「美希ちゃん、フランスに行っちゃうってホント?」 美希「ええ、来月の15日から1ヶ月短期留学することになったの。パリコレも見学させてもらえるし楽しみだわ~」 ラブ「そんなぁ~。せつなに続いて美希たんまでいなくなっちゃうなんて…寂しいよ。」 美希「ちゃんと3月には帰ってくるから。電話もメールもするから心配しないの!」 祈里「美希ちゃん…」 それから数日 ラブ「ブッキーダメだよぉ」 祈里「だってさみしいんだもん!」 せつな「ラブ…。浮気はしないってあれほど約束したのに!!!」 美希「ん、せつなからメール…何々?えっ!!!ブッキーがラブとイイ関係!?」 【着信中 美希ちゃん】 Trrrr...ポチッ。 祈里「もしもし。美希ちゃん?」 美希「ちょっと!!聞いたわよ。アンタ、アタシがいないのをいいことに、ラブと付き合っているんですって!?」 祈里「だってぇ~、美希ちゃんたら全然会ってくれないんだもん。」 美希「しょうがないでしょ!フランス語のレッスンとかで忙しいんだから。」 祈里「ふえ~ん。美希ちゃーん…」 美希「んもう!ブッキー、あなたらしくないわよ!」祈里「うう…ひっく…」 美希「…分かったわ。じゃあ渡仏前に一度会いましょ。約束するわ。」 祈里「う、うん…。」 美希「じゃあね。おやすみ、ブッキー。」 祈里「…おやすみなさい、美希ちゃん。」 ガチャ。ツーツーツー… せつな「いいの?嘘ついて」 美希「お互い様でしょ」 ラブ「気のせいかなー」 祈里「なあに?」 ラブ「電話切る間際にせつなの声が・・・」 祈里「そんな訳ないでしょラブちゃん」 ラブ「そ、そうだよね。アハハ…。せつながそんなに早くこっちに帰ってくる訳ないよね。」 祈里「でしょ~。だったらさっきの続きしようよ、ラブちゃん!」 ラブ「う、うん!」 美希「ちょ、ちょっとせつなどうしたのよ!」 せつな「行くわよ美希!何か虫酸が走るの!」 ピカーーッ ラブ「うわ、眩しっ!…って、美希たん!それに…せ、せつな!?」 祈里「せつなちゃん!?いつ帰って来たの?」 せつな「ラビリンスからあなたたちの事を見ていたけれど、もう我慢が出来なくてこっちに来たのよ。」 美希「ブッキー、ラブ、覚悟はイーイ?」 祈里「うわ~ん、ごめんなさーい!」 ラブ「ちょ、ブッキー!その格好で逃げる気なの?」 美希・せつな「逃がすかぁー!!」 せつな「私に勝てると思ってるのか!」 ラブッキー「すいませんでした…」 美希「何もイースに変身しなくてもイイじゃない」 せつな「ちょっと美希、ブルンで勝手にイースのコスプレさせないでよ」 美希「せつなも乗ってたじゃない」 せつな「もう…、それにしても私、以前こんな格好してたのね…。は、恥ずかしいわ…」 ラブ「せ、せつな…萌え…」 せつな「それはさておき、どうやってお仕置きしようかしら…」 美希「せつな、耳を貸して。」 せつな「うんうん、それはいい考えだわ。美希、やっちゃいなさい!」 美希「OK!」 祈里「ラブちゃん、怖いよぉ…。」 ラブ「やだっ、こっち来ないで!美希たん!」 美希「フフフ…二人とも覚悟しなさい!!」 ブキ「きゃっ!!」 ラブ「この格好は……」 美希「フフフ。ブルンに頼んで皆の格好をイースコスにしてみたの」 ブキ「は……恥ずかしい……」 せつ「ラブ……すごいわ(よだれ」 ラブ「あれ?ねぇ、そう言う美希たんもイースコスになってるよ?」 美希「うひあ!?」 祈里「わたし…信じてた…」 美希「えっ!?何よ、ブッキー!」 祈里「美希ちゃんがイースの衣装を着てくれるって。」 ラブ・せつな「ブッキー…。」 祈里「せつなちゃんがイースだった頃から、あれを美希ちゃんが着たら似合うんだろうなぁって。」 美希「そんな事考えてたの?」 祈里「…ダメ、もう我慢出来ない!」 がばっ! 美希「ちょっと、何するのよブッキー!離して!」 祈里「ハァハァ…美希ちゃんとってもきれい…」 美希「…ひやっ!胸触らないで!」 せつな「ラブ、今夜は寝かさないわ。」 ラブ「あたしだって!せつなとするの久しぶりなんだから。」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/69.html
今日はお父さんは残業。お母さんはパートの遅番。タルトとシフォンは ブッキーの所でお泊まり。 そしてせつなは、多分図書館。最近せつなはよく本を読んでる。 こちらの事を勉強中なのだ、と彼女は笑う。新しい事に触れ、知識や経験を 増やして行くことが楽しくて仕方ない様子だ。 せつなが早く馴染んでくれればいい、美希たんやブッキーとも、もっと 仲良くなって欲しい、新しい友達も沢山出来れば嬉しい。 そうすればみんな幸せ。 そう思ってた。本当に、そう思ってたはずなのに。 いつからだろう。せつなが自分以外の人に笑顔を見せると、胸の中にチクチクと 不快感が走るようになったのは。 最初は、「あたし、ヤキモチ焼いちゃってる?らしくないなあ。」なんて、 自分に苦笑いする余裕があった。 でも、そんな嫌な気持ちをハッキリ意識したのはダンス合宿の時。 余り乗り気ではなかったせつなに、自分から「ダンスをする。」と言わせたのは ブッキー。あたしじゃなかった。 あの日、せつなを夕飯に呼びに行ったまま中々帰って来なかったブッキー。 薄暗い窓を見上げながら、ハッキリと苛立っている自分を意識した。 その後、あの時どんなやり取りがあったのか分かっても、一度心に絡み付いた棘は 無くならなかった。それどころか、どんどん増えて行く。 せつなが他の誰かの話をする度に。他の誰かに笑顔を見せる度に。 せつなは親友で家族。そしてプリキュアとして共に戦う仲間。一番近しい所にいるのは自分。 一つ屋根の下に住み、9月からは学校だって一緒。誰が見たって、 これ以上の仲良しなんていないよね? これ以上近くになんてどうやって行ったらいいの? せつなを閉じ込めて、誰にも会わせないで、自分だけのモノに。 そうでもしないとムリだよね。でもそんな事できっこないし。 もしそうしたって満足できるかどうかなんてわからないじゃん。 そこまで考えて初めて気付いてしまった。 ううん、本当はとっくに分かってた。分かってたのに知らんぷりしてた。 だって、どうしようもないもん。 こんな気持ち、せつなは困るに決まってる。でもきっとどんなに困っても せつなは面と向かって拒否できない。 今のせつなは自分が誰かを傷つける事を何より怖れて。 拒否する事であたしを傷つける事を怖れて…… でも、そんなせつなは見たくない。 ガランとした家の中でラブは笑おうとした。 でもそれは苦い泣き笑いにしかならなかった。 (欲張りだな、あたし。) 自分勝手に嫉妬して、自分だけのせつなを欲しがって、そうはならない現実に 苛立って一人ぐるぐる馬鹿な事考えて。 せつなを独り占めしたいのに、自分から言うのはイヤ。 せつなが自ら望んでそうなって欲しい。 ラブは特別。ラブだけが好き。ラブがいれば他に何も要らない。 (そう言って欲しいんだよね。あたしは……) あたしがこんな風に思ってるなんて、せつな、知らないだろうな。 誰も気付いてないよね? だって、必死に隠してきたんだし。 閉め切った部屋は暑くて、じっとりと全身に汗が滲んでくる。 頭の中がぐつぐつと音を立て、やり場のない思いで煮詰まって行く。 (ちょっと頭、冷やそう。みんな帰ってきたら変に思われちゃうよ。) ラブはわざと冷たい水でシャワーを頭から被った。 真夏とは言え、火照った体と冷水のギャップに一瞬悲鳴をあげそうになる。 しかし徐々に冷たさに馴染むにつれ、自分のどろどろした欲望が凍えて 固まって行くようで、芯まで冷えていくのが心地良くさえ感じる。 凍てついたその固まりは決して無くなりはしないのだけれど。 冷たく凍らせておけば溶けて溢れ出る事はないはずだ。 体の感覚が無くなり、震えがきた所でラブは漸くシャワーを止めた。 髪も乾かさずバスタオル一枚でノロノロとリビングに戻る。 「ただいま、ラブ。どしたの?」 いつの間にかせつなが戻り、台所で夕飯の準備をしてた。 「シャワー浴びてたの?今日は暑いもんね。」 屈託無く笑顔を向けてくるせつなに、ラブは顔を上げる事ができない。 「ラブ?」 うつ向いたまま何も言わないラブにせつなは心配そうに近づき、 そっと肩に手を触れる。 (熱い。) せつなの肌の熱さにラブはおののき、震えた。 (ダメだよ、せつな。触っちゃダメ…。溶けちゃうよ、せっかく凍らせたのに……) 「やだ!ラブ冷たい!どうしたの?」 冷えきったラブの体にせつなは驚いて眼を見張る。 「早く服着なきゃ!何か温かい物飲む?」 世話を焼きにかかるせつなの手を、今まで無反応だったラブが不意に掴んだ。 そのままゆっくりとせつなの頬に触れ、輪郭をなぞる。 顎に指を掛け、親指で綺麗な曲線を描く唇を撫でる。 「……ラブ?」 不信気なせつなにラブはゆっくりと微笑みを浮かべる。 「ねぇ、せつな。あたしの事…好き?」 (ごめんね、せつな。あたし、やっぱりもう…ダメかも知れない。) 了
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/296.html
翼をもがれた鳥 第8話――友の胸に抱かれて―― ここは……。 重いまぶたをゆっくりと開く。 眩しい、強い光量が瞳に突き刺すように差し込んでくる。 辺りは一面の白。布団も、壁も、天井までも。手をかざして光を遮ろうとした。 しかし、両手が動かない。感覚もおぼろげで力が入らない。そのうちの一方がほのかに温かかった。 私は……。 なぜか自分の名を思い出せなかった。 その代わり、別の名前を思い出した。 心に思い浮かべるだけで、懐かしいような、寂しいような、不思議な気持ちになる。 「……ラブ」 「せつな? 気が付いたの? せつな!」 なんとなく、口にしただけの名前。その人が隣にいた。 そう――私の名前は、東 せつな。そして―― 動かない手に感じていた温もりは、ラブから伝わってきたもの。 その柔らかな掌の感覚が嬉しくて……。私を呼ぶ声が耳に心地良くて……。 不意に視界が揺らぎ、頬に温かいものが流れる。悲しくもないのにどうして? 不思議だけど不快じゃなかった。 「せつな! どうしたの? どこか痛いの? 苦しいの?」 「……ん……なさい。ごめ……ん……なさい」 ぼんやり映るラブの顔も、泣いているように見えた。 手が強く、強く握られる。 体中の感覚が無くて、まるで闇の底に落ちていくような不安に囚われる。 そんな私を、繋ぎ止めてくれる最後の拠り所。だから、力の入らない手で、それでも少しだけ握り返した。 「ラブ。私は……うらやましかった。あなたが……あなたたちが、うらやましいと思ったの」 「うん……うん……わかるよ」 「やり直せなくて……ごめんなさい。でも……嬉しかった」 「大丈夫だから! せつなは何も心配しなくていいからね! あたしがなんとかするから!」 ありがとうって、言いたかった。そんなこと無理だってわかっていたけれど。 楽しかったって、伝えたかった。たとえ、一時の夢のような記憶であったとしても。 でも、言えなかった。口は開いても動いてはくれず、まぶたは閉じたきり開こうとしない。 手にも力が入らなかった。ただラブの温もりにすがりながら、深い、深い眠りの底へと沈んでいった。 『翼をもがれた鳥――友の胸に抱かれて――』 せつなが眠ったのを確認してから、ラブは布団を掛けなおした。 そして、そっと手を差し入れてせつなの手を握り直す。その手は悲しいほどに冷たかった。 せつなが戸惑っていた。不安そうな顔をしていた。 人目を好まないと思って取った個室。でも、病院の殺風景な部屋は寂しかった。 本当は――家に連れて帰りたかった。どうしてもお医者様の許しが得られなかった。 せつなの体は酷い状態だった。外傷も軽くはないけれど、もっと深刻なのは原因不明の衰弱。 生命維持に必要な能力の大半が機能していない。きっと、ずいぶん前から食事もとれてなかったはずだって。 多分、あのカードを使った時からだ。そんな気がした。ろくに自然治癒も、回復もしないような体で戦ってきたのだろう。 ごめんなさいって言った。震える声で――そう言っていた。 まだ麻酔が効いている。意識も朦朧としていたはず。もしかしたら、さっきの記憶は残らないかもしれない。 うわごとのような状態だったのだろう。でも――だからこそ、本当の気持ち、素直な気持ちが聞けたような気がした。 あたしこそ……ごめんなさい。 どんな気持ちで、あたしと会っていたんだろう。 どんな気持ちで、あたしと戦ってきたんだろう。 どんな気持ちで、あたしにあやまったんだろう。 悪いことをしてきた。 どうしてこんな酷いことをするの? って……。 仕方がないじゃない! 何も選ぶことすら許されてないんだもの。 あたしは……今まで何をやってきたんだろう。 あたしは……一番助けてあげなきゃいけない人と戦ってきたんだ。 幸せを奪われて、泣き叫んでいる人たちにだって、自由は残されていたはず。 自分の意思で選んで、自分の人生を生きて、自分の幸せを掴む権利は持っていたはずだった。 何が……罪を憎んで人を憎まず……だよ。 自分が正しいつもりでいた。 だから、大切な友達にわかってほしかった。 わかっていないのは――あたしの方だった。 あたしが幸せな環境で育っただけ。温かい家庭に恵まれただけ。自由な国で生まれただけだった。 そんな特権を振りかざして、何も持っていない、ただ――生きるだけで精一杯なせつなを責めていたんだ。 「ねえ、せつな。せつなの幸せは何?」 なんて……酷いことを言ったんだろう。どんな気持ちで聞いていたんだろう。 願いを持つことすら許されない子の前で、あたしは夢を語り、友達を見せびらかし、応援までさせようとした。 「せつなはいつも一人で居ることが多いから、寂しいのかなって」 「本当は、命が尽きてもいいなんて思ってないんだよね!」 「ラビリンスから抜け出させるために来たの。あたしの全てをかけて!」 やめて! もう……やめて……。 何を言ってきたんだろう……。ずっと、せつなを傷付けてきたんだ。あたしが、あたしの言葉が……。 できないんだから……しょうがないじゃない……。 ラブの頬から落ちる涙がシーツを濡らす。 辛くて、悲しくて、何より悔しかった。だから、声を押し殺して泣いた。 せつなを起こさないように、布団にしがみつくようにして。一瞬たりとも、繋いだ手は離さないようにしながら―― 一夜明けたせつなの病室。窓にかかるカーテンの隙間から朝日が入り込む。 うつら。うつら。ラブの頭がゆっくりと前後する。目が開いたり閉じたりを繰り返す。 やがて、せつなの布団に倒れこんだ。そのショックで目が覚めて、慌ててせつなの手を探く握りなおす。 昨日より、ほんの少しだけ掌が温かくなっているような気がした。安堵の表情を浮かべて、空いている手もせつなの手に被せた。 こうしていると、少しでもせつなに力を分けてあげられるような気がしたからだ。 部屋が遠慮がちにノックされる。ラブは惜しみつつもせつなから手を離し、ドアを開けた。 そこには心配そうにしている母親、あゆみが立っていた。 「おかあさん……」 「見舞いに来たの。お友達の具合はどうかと思って。少しいいかしら?」 「うん……」 「心配なのはわかるけど、メールの返事くらいはしなさいね。意識はまだ戻らないの?」 「ごめん。昨夜一度だけ目を覚まして、後はずっと眠ったままだよ。多分、ずっと寝てなかったんだと思う」 「それをご家族には連絡したの? どこに住んでいる子なの?」 「ちゃんとした家はないの……。家族もいないの。お願い、それ以上は聞かないで」 「そうなの……わかったわ。苦労してきたのね」 あゆみは、そっとせつなの頬に手を当てる。一瞬驚きの表情を浮かべて、また優しくせつなを撫でる。 そして、ラブがしていたように、両手でせつなの手を握った。 その表情が、仕草が、あまりにも自分と似ているような気がして嬉しくなった。親子なんだって、心が温かくなった。 そして、そんな幸せも、きっとせつなは知らないんだろうなって思った。 少しづつ言葉を選びながら、せつなとの出会いを話した。 道に迷った自分を導いてくれたこと。街を案内してあげたこと。一緒に遊んだこと。相談に乗ってもらったこと。心配してもらったこと。 倒れた時、見舞いに来てもらったこと。ダンスの応援に来てもらったこと。 上品で礼儀正しい子だってこと。優しくて、可愛らしい子だってこと。笑顔がなぜか、いつも寂しそうに見えるってこと。 あゆみは静かに聞いていた。時々口ごもる娘の様子から、きっと話せないこともたくさんあるんだろうって察しながら。 聞き返すようなことはしなかった。娘がこれほど愛している子だから。いい子なんだってことは、説明されるまでもなかったから。 「目が赤いわよ、ラブ。徹夜したんでしょ。今日はお仕事休んでわたしが見てあげるから、帰って少し休みなさい」 「ううん、大丈夫。さっき少し寝たから平気。お店の人が困っちゃうよ」 「そう。せつなちゃんと言ったわね、具合が良くなったら家に連れていらっしゃい。力になってあげられるかもしれないから」 「……ありがとう、おかあさん」 ラブはあゆみの背中に回って、後ろから抱きついた。名残を惜しむように、その抱擁は長く、長く続いた。 「それじゃ、夕方にはまたここに来るから、その後は休むのよ」 「うん、ありがとう」 「あんまり無理しちゃダメよ。行ってきます」 「あっ、待って! おかあさん」 「どうしたの?」 「ううん、なんでもない。おかあさん、本当にありがとう」 それは――いろんな想いを込めたありがとうだった。 ベッドの横にある小さなテーブルでラブが手紙を書く。それは、おとうさんとおかあさんに宛てたもの。 今まで愛してくれてありがとう。何も話せなくてごめんなさい。 そして、もしも自分が帰って来れなかったら、その時はせつなをお願いって。 幸せと呼べるようなものを何一つ知らずに育った子だから、その分愛してあげてほしいって。 本当に、いい子だからって。 あと二通書いて同封した。 一つは美希と祈里に宛てたもの。酷いことを言ってごめんなさい。気持ちはわかっているからと。 今から身勝手な行動を取ること、その謝罪。そして、後のことをよろしくと。 もう一つは、ミユキと友人に宛てたもの。同じく感謝とお別れの言葉を書いて閉じた。 もう一度、これまでに出会った全ての人に感謝して手紙を置いた。 こんなもの――役に立たなければいいと願いながら。 ラブはせつなの傍に立ち、そっと髪に手を伸ばす。細く、柔らかな髪がラブの手から逃げるように零れ落ちる。 うなされていた昨夜と打って変わって、穏やかな安らいだ寝顔。規則正しい寝息。 本当は抱きしめたかった。体全体でせつなを感じたかった。でも、眠りを妨げたくなくて我慢した。 どうしても名残惜しくて、頬から顎にかけてそっと指を滑らせた。くすぐったいのか、せつなは軽く首を振って逃げる。 びっくりして手を引っ込めた。そして、顔はあきらめて手を繋いだ。 今度は力を分け与えるためじゃなくて、気持ちを伝えるため。 言葉では伝えきれない心を届けるため。 「ねえ、せつな。せつなの幸せは何? まだわからないよね。それをこれから探してほしいの。 世の中にはね、い~っぱい楽しいことや嬉しいことが溢れているんだよ。 ドキドキしたり、ワクワクしたりね。ハラハラしたり、落ち込んじゃったりすることもあるけど。 みんな幸せになるために、みんなで幸せになるために、助け合って精一杯がんばっているの。 大丈夫だよ! せつなはな~んにも心配しなくていいからね。 あたしがなんとかするから。だから――帰ってきたら笑顔で迎えてね」 そっと、せつなから離れる。 「さよならは言わないよ。あたしは欲張りなんだから。せつなの幸せも、あたしの幸せも、二兎を追って両方ゲットするんだからね!」 扉の前に立ち、そして微笑んだ。 「それじゃあ、行ってくるね」 扉が静かに閉じられた。通路を駆ける音が小さく鳴り響く。 そして、ついに堪えきれなくなった涙が、せつなの瞳から零れ落ちた。 せつなは布団の中で素早く体の状態をチェックする。昨夜のような半覚醒ではない、しっかりとした意識が戻っていた。 戦士の本能が身体の掌握を求める。手も足も動く。頭痛も軽く、全身に走る痛みもいくらかマシになっていた。 この世界の他の技術力に比べて、医学の進歩は大変なものだと感心する。 更なる休息を要求する体を無理やり起こす。 痛みは無視した。動けばいい。今は――それどころじゃない! 立ち上がり、周囲を確認する。手紙が目に止まった。一目でラブが書いたものだとわかる。 悪いと思いつつも開いて目を通した。 やっと止まったばかりの涙が再び溢れてくる。そこに綴られている想い。 ラブは、どれほど大切なものと自分を天秤にかけようとしているのか。 ポタリ。ポタリ。と落ちて手紙の文字がにじんでいく。 ついに堪え切れなくなって、ベッドに顔を埋めて号泣した。 うらやましいと――思った。 いつもいつもバカみたいに笑っているラブが、うらやましいと思った。 夢を語り、仲間と共に追いかけているラブが、うらやましいと思った。 心配してくれる人たちに囲まれているラブが、うらやましいと思った。 だから、私も何かを手にしたかった。 ラビリンスから離れることができないのなら。 メビウス様の僕であることしか許されないのなら。 その中で一番大きなものである、メビウス様の寵愛が欲しかった。 私は――私は―― 幸せに……なりたかったんだ。 「もう、いい」 もう、いいと思った。 いつ尽きるかわからない寿命に脅えて生きてきた。 ずっと幸せを知らず、メビウス様の僕として、イースとして生きてきた。 それが……なんだというのだろう。 何も持っていない者が、何かを手に入れるのをあきらめるよりも、 多くのものを手にしている者が、それを失うほうがずっと辛いに決まってるのに。 「もう――いい!」 メビウス様に忠誠を誓ってきた。 命すら捧げようとしたこともあった。その悲願の成就のために。 だけど、思う。私は、イースは、メビウス様の幸せを願って仕えていたのかと。 違う――と思った。 求めていたのは、常に見返り。自分の幸せのためだった。 「私は――もう――幸せを手に入れたから」 寂しかった。誰からも愛されず、必要とされないまま消えるのが寂しかった。 だから、命と引き換えにしてでもプリキュアを倒そうとした。 でも、愛してくれる人はもっとすぐ側にいた。 その者は今、命を賭して勝算の無い戦いに挑もうとしている。私を救う、ただそれだけのために。 両手に抱えきれないほどの幸せを置き去りにして。 ならば、私が望むものはただ一つ。 生まれて初めて、他人の――友の幸せを願おう。 たとえ、寿命の全てを奪われることになろうとも。 イースでも、せつなでもない。本当の自分を生きてみよう。 それが一瞬の輝きとなってもいい。本当の自分の願い。それは―― 「私は――ラブの笑顔と幸せを守るために戦う!」 “スイッチ・オーバー” 全身の細胞が戦うための配列に切り替わる。ラビリンスの技術力の結晶。人体の完全管理が生み出した力。 しなやかな肉体が、強靭な漆黒の闘衣に包まれる。朝の日差しを浴びて、白銀の髪が煌く光を放つ。 だが、日頃感じている破壊の衝動は起こらなかった。湧き上がるのは勇気。そして―― 友の幸せを願う優しい心。 生まれて初めての、名乗りを上げない変身。心が温かい。そんな気持ちで戦いに臨むのも初めてだった。 「待ってて――ラブ。今――行くから!」 こんなものは必要ない。必要とさせない! ラブの手紙を粉々に破り捨てる。 四階に在る病室の窓から飛び降りる。そのまま住宅の屋根に飛び移り、風を切り裂くように駆け出した。 真っ直ぐに――ラブの元に向かって。 朝の柔らかな日差し。小鳥のさえずりに急かされるように祈里は目を覚ました。 穏やかな目覚め。不謹慎だとは思うが、祈里は昨日の結果に満足していた。 最良にして非情な手段。それが駄目になったことで状況は間違いなく悪化しているのに。 やっぱり、ほっとしていた。 窓を開けて爽やかな空気をいっぱいに吸い込む。 少し寝坊してしまった。夏休みだから差し支えはないけれど。 先日の戦闘の疲れ。寝不足と心労。昨日の薬の効果も少し残っていたんだろう。 寝汗を気にして下着も全て替えることにした。 今朝の気分に合わせて、あれこれ迷いつつ下着を選んでいく。 どれも自分の趣味に合わせたもの。全部可愛いに決まってる。 誰に見せるわけでもないのに、女の子って不思議だと思う。 そんな時、リンクルンが鳴り出した。 恥ずかしい格好のまま手に取って開いた。 思った通り美希からだった。見えるわけじゃないのに、なんとなく体を手で隠した。 「ブッキー! ブルンが戻ったんだけど、なんだか様子がおかしいの。キルンで通訳して! もうすぐそちらに着くから」 「えっ? えぇ~~! わかった、用意して待ってる」 美希の前で、まさかさっきまで寝ていましたなんて言えない。 急いで着替えなくちゃいけない。女の子の用意は着替えだけじゃないんだから。 慌ててタンスに小指をぶつけて下着姿で転げまわった。こんな格好見られたら絶交されるんじゃないかと思う。 ブルンの様子がおかしいと言っていた。それ以降はテキパキと支度を進めながら考える。 まさか昨日の今日でイースが、せつなが何かするとも思えなかった。そんな状態だとはとても思えなかった。 ともかく、ブルンの言葉を聞けるのはキルンだけ。大急ぎで着替えとお化粧を済ませて一階に降りる。 同時にチャイムが鳴り響いた。食事はあきらめることにした。 「ブッキー、朝からゴメン」 「ううん、さっそく通訳するね」 緊張感の漂う美希の様子に気を引き締める。もしかしたら、また戦いになるかもしれないと思った。 キルンを呼び出してブルンから話を聞きだしていく。たちまち祈里の顔が青ざめていく。 「美希ちゃん! 急ごう。ラブちゃんが病室からいなくなったって。その後、せつなさんはイースになって部屋から出ていったって」 「なんですって! ――甘かった。まさかこんなに早く動きがあるなんて」 二人は同時に駆け出した。事態は、最悪の想像を恐るべき速さで現実に変えつつある。 そして、こちらは常に後手を踏んでしまっている。 (お願いだから早まらないで)(どうか、無事でいて)美希は悔いるように、祈里は祈るように走り続けた。 目指すは占いの館――ラブの元に向かって。 第9話 翼をもがれた鳥――ただ一度きりの飛翔――へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/271.html
第14話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーフェスティバル――』 遠くから聞こえてくる、太鼓と鐘の音。 祭りの開始を告げる祝砲が鳴り響く。 四ツ葉町の一大イベント、クローバーフェスティバルの開催だ。 「これすっごく可愛いよ。ありがとう、おかあさん」 「ありがとう。昨年の浴衣もまだ一度しか着てないのに」 「いいのよ、せっちゃん。晴れ着を新調するのは母親の喜びなんだから」 「いやあ、父親だって嬉しいものだぞ。よし、次は二人一緒に並んでポーズだ」 ラブとせつなが新しい浴衣を披露する。圭太郎は嬉しそうに記念写真を撮っていく。 「頑張って作った甲斐があるわ」とあゆみも上機嫌だ。 ラブは白地にいっぱいの花柄。ピンクに紺のラインの浴衣帯。 せつなは薄紅色の生地に大きなリボンと水玉の柄。赤い菱形模様の浴衣帯。 チーズなんて言う必要もない。自然にこぼれる笑顔。うずうずして勝手に動く体。せつなはすっかり浴衣が気に入っていた。 華やかな浴衣を着ると心が弾む。わくわくして晴れやかな気持ちになる。 それでいて、しっかりと肌に馴染んで落ち着く。矛盾してるけど全部ほんとうの気持ち。不思議だと思う。 お風呂上りの着衣として生まれたものらしく、軽くて風通しも素晴らしい。 もっと普段から着る機会があればいいのに。それだけが不満だった。 「美希たんとブッキーが待ってるんだ、あたしたちは先に行くね」 「おとうさん、おかあさん、行ってきます」 新調したばかりのピンクと赤の下駄を履いて玄関を出た。 賑やかな祭り囃子と勇ましい掛け声。いつもよりずっと多い人の流れ。 そわそわする気持ちを抑えながらゆっくりと歩く。 浴衣を着ると自然と動作はゆるやかに上品になる。決して動きにくいわけではないのに。 美しい着物姿をより美しく見せたいと思うからだろうか。 心なしか普段より人目を引いているような気持ちになる。 履きなれない下駄が更に歩みを遅くする。でもそれも悪くはなかった。 ゆっくり静かに動くことで、普段とは違う時間の流れを体験できる。いつもと違う景色も見えてくる。 年に一度しかないイベントを、余すところなく満喫するにはうってつけだった。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーフェスティバル――』 「ラブ~せつな~こっちよ」 「ラブちゃんもせつなちゃんも可愛い」 待ち合わせ場所は決めていたものの、人だかりが多すぎて合流に手間取ってしまった。 やっと揃って安堵の表情を浮かべる。 美希と祈里ももちろん浴衣姿。美希は紺に近い青地に蝶の柄。黄色い花柄模様の浴衣帯。大人の雰囲気。 祈里は黄色の生地に赤い金魚の柄。黄緑の無地の浴衣帯。美希とは対象的に幼く可愛い印象だった。 まずは広場に設立されたメイン会場に向かう。地元出身の超人気ダンスユニット“トリニティ”のステージがあるのだ。 会場に近づくにつれて祭りの露店も増えてくる。無数の屋台がひしめき合い、競い合う様子は圧巻だ。 色んな食べ物やおやつの匂いが交じり合って食欲を刺激する。 屋台の垂れ幕や所狭しと突き立つのぼりが雰囲気を盛り上げる。 大きさを増す囃子と威勢のいい売り子の掛け声。五感の内の四つを刺激されてはたまらない。 「あ~~もう我慢できないっ! おじさ~ん、たこ焼き四つお願い」 「ちょっ! ちょっと、ラブ。アタシはいいわよ。自分で食べるものは選ぶから」 「美希ちゃんは食べ過ぎたら大変だものね」 「………………………………」 せつなはしばらく呆然として、その後吹きだしそうになるのを必死で堪えた。 美希のタコ嫌いは秘密なんだ……。幼馴染なのによく隠し通せてきたものだと思う。ジト目でサインを送ってくる美希の様子がまた可笑しかった。 おじさんに椅子を貸してもらって熱々の内に頂いた。 タコ焼きは屋台の食べ物の中でも一番人気だ。そして、冷めたら極端に味の落ちる料理でもあった。だから最初に食べるのが良いのだとか。 食べながら歩けるのも人気の理由なのだが、浴衣姿の女の子はそうもいかない。 次に目をつけたのはりんご飴。赤い果実が飴に覆われてキラキラと輝く。大きいのは我慢して、選んだのは姫りんご飴。 隣にはチョコバナナ。これも色んなトッピングが美しかった。小さなコーンが帽子のように被せられて、顔が描かれてるものもあった。 突き刺したポッキーは腕の代わり。「これじゃカカシよね」と祈里が呟いて周囲のお客さんも大笑い。 せつなが目をつけたのはわた飴。砂糖を入れるだけで出てくるふわふわのお菓子。味は駄菓子屋で知っていたものの、作り方が不思議だった。 「お嬢ちゃん、やってみるかい?」と声をかけられる。せつなは乗り出すように見つめていたことに気がついて、恥ずかしくて真っ赤になる。 おそるおそる割り箸に絡めていく。作りたてのわた飴は、ふんわりしててとろけるような甘さだった。 そして会場に着く。 今年のゲストはトリニティのみ。スケジュールに余裕が出来たため、コンサート形式の立派なステージプログラムが用意されていた。 まだ時間が早く、その前のイベントである一般参加のダンスコンテストが始まったばかりだった。 コンテストというのは名ばかりで、楽しく踊る姿を見てもらうのが目的だ。昨年の漫才大会がそうだったように。 始めたばかりで動きがちぐはぐなユニット。緊張して転んでしまうユニット。お世辞にもレベルが高いとは言えなかった。 でも―― みんな、本当に楽しそうだった。失敗すらも会場の笑いに変えて。その後、ちゃんと励ましの声援を送ってもらって。 せつなたちもクローバーの活動を思い出して懐かしい気持ちになった。そして、ちょっとうらやましかった。 クローバーはプロを目指すユニットだった。その練習は厳しく、楽しむという感じではなかった。 人前で踊ったのはダンス大会だけ。不安と緊張との戦い。それはそれで充実していて素敵な思い出だけど―― 「こんな風に、踊ってみたかったな」 ポツリとつぶやいたラブの言葉に全員が一瞬驚いて――そして、頷いた。 みんな同じ気持ちだったから。それぞれの道を歩んではいても、みんな本当にダンスが好きだったから。 ダンスコンテストが終わり、順位の発表と景品の授与が行われる。優勝したのはダンス大会の一次予選で見かけたユニットだった。 そしてしばらくの休憩を挟んで、メインイベントが始まる。 「皆様、お待たせいたしました。これよりクローバ-フェスティバル特別企画、トリニティのスペシャルステージを開催します」 司会者が宣言してトリニティがステージに上がる。巻き起こる盛大な拍手。 会場は同じ。照明も音楽も、ダンスコンテストと特に変わることはない。 しかし――空気が一変した。 ミユキ、ナナ、レイカ。たった三人の登場で会場が別の空間に姿を変える。 彼女たちの声に、視線に、魔力でもあるかのように。一挙手一投足に神秘の力でもあるかのように。 全ての観客から私語が消える。バラバラに楽しんでいた人たちが一つになっていく。 全ての意識は一つに。全ての関心は一点に。体を揺らし、腕を振り、合いの手を入れる。 美貌? 技術? 知名度? そんなものでは説明しきれない真のダンサーの魅力、吸引力を思い知る。 せつなも、美希も、祈里も、久しぶりに見るトリニティのステージに魅了される。 ただ一人――ラブを残して―― 「ラブ、ラブ、どうしたの?」 せつながラブの様子のおかしいのに気付いて声をかける。 喜びと興奮に包まれる会場において、一人切なく悲しそうな表情を浮かべる。 拳は固く握り締められ、相当な力が込められていることを示すように両腕が小刻みに震えていた。 「せつな……。大丈夫、なんでもないよ。トリニティのダンス、やっぱり凄いね」 「ええ……そうね」 せつなはそれ以上は追求せずに、ラブの拳をそっと開いて手を握った。 それでラブも落ち着いた様子だった。しかし、ステージが進むうちに再び様子がおかしくなる。 何かをこらえるような表情、せつなの手が痛みを感じるほど強く握られる。もう――理由を聞くまでも無かった。 せつなの表情が後悔に歪む。ダンス大会で優勝したクローバーには、本来はプロデビューへの道が開けていたはずだった。 だが、せつながラビリンスへの帰還を宣言したことでクローバーは本来の姿を失った。残された三人はせつな抜きで続けることを望まなかった。 美希と祈里もまた、それぞれモデルと獣医の夢を追うことになり、クローバーは解散した。 ただ一人――ラブの夢を置き去りにして。 再会した時の、震えるラブの体を思い出した。溢れる涙を思い出した。 酷いことをしたと思う。ラブは家族として愛してくれた自分と、掴めたはずのプロダンサーへの夢を同時に失ったのだ。 それでも笑顔を絶やすことなく励まし、送り出してくれた。 平気なはずはない――平気なはずはないのに―― 「せつな、どうしたの? 泣いているの?」 「ラブ……ごめんなさい。私は……そんなつもりじゃなかった」 いつの間にか立場が逆転していた。気が付くとステージは終了し、ラブの様子も元に戻っていた。 湧き上がる心のまま謝罪の言葉を口にする。でも、そんなつもりじゃないなら、どんなつもりだと言うのだろう。 あの時の私には、ラブのことまで考える余裕が無かった。私が成すべきことを知って、果たすべき使命を見つけて、それで精一杯だった。 今度は、みんなにも幸せになってほしかったから。 だから――最も愛してくれた、助けてくれた、支えてくれた人の幸せを犠牲にしてしまった。 ううん――本当はそんなことすら、考えようとしなかった。 「せつなは悪くないよ。全然ちっとも――悪くなんてないんだから」 ラブはそれだけで全てを察してせつなを抱きしめる。そして、そっとせつなにささやいた。「あたしは幸せだよ。だって、せつなと一緒だもん」って。 せつなの瞳に浮かんだ涙が一粒の雫となって流れ落ちる。 「ラブ、せつな、どうかしたの?」 「何かあったの? ラブちゃん」 「あ、ううん、なんでもない。久しぶりのコンサートで感極まっちゃったみたい」 せつなはラブの腕の中でそっと涙をぬぐった。脳裏によみがえる記憶。巨大ドームでピーチに抱きしめられたことを思い出した。 あの時と、同じだと思う。ラブは私と出会ってから傷付いてばかりいる。 繰り返される後悔と自責。私の人生はこんなことばっかりだ。私は人を――不幸にする。 でも、それでも今を頑張るしかない。過ぎてしまった時間は戻らないから。ひとつひとつやり直していくしかないんだ。 顔を上げてラブと視線が合う。優しさと愛情に溢れた瞳が語りかけてくる。「せつなは何も心配しなくていいんだよ」って。 小さく頷いてラブから離れる。心配そうにする美希と祈里に笑顔で振り返る。 今の私にできること、それは、今日という一日を精一杯幸せな日にすること。 「さあ、行こう! 美希たん、ブッキー、せつな。お祭りはこれからが本番だよ」 辺りはすでに薄暗くなっていた。 昼間のお祭りとは全く違った趣があらわれる。 賑やかな飾りにすぎなかった提灯がその真価を発揮する。 暗闇の中で揺れる光の波。夜空にうねるように走る、幾千もの灯りが描く軌跡の美。 ただ綺麗というのではない。何か心を躍らせる、楽しい気持ちにさせる力が感じられた。 自然の生み出す輝きとは異なる美しさ。街の美しさ、祭りの美しさは人の心が生み出す幸せの煌き。 無数の屋台が灯りをともし、夜店へと姿を変える。祭りを楽しむ人たちの笑顔を明々と照らし出す。 街の人全員が一つの生き物であるかのような不思議な一体感に包まれる。 普段なら同じ場所に居ても、目的は人により様々だ。 大勢の人が同じ目的で同じ場所に集い楽しむ。街全体で心を一つにして楽しむ。きっとそれが祭りなんだと思った。 「う~ん、どれも美味しそう」 「種類も多いけど、同じものがあちこちで並んでるのね」 「ちょっと歩けば大体そろっちゃうね」 「甘い甘い。匂いやお店の人の手付き。使ってる具材。選ぶ要素は沢山あるのよ」 焼きとうもろこし。イカ焼き。この二つは匂いが素晴らしかった。クラクラしてくるほどに。 焼きソバにお好み焼き。チジミに焼き鳥。鉄板で焼く小気味良い音と立ちこめる煙が食欲をそそる。 フランクフルトにフライドポテト。ラーメンにおでん。日頃見慣れた食べ物が、祭りの中では抗いがたい誘惑を放つ。 結局選ぶことが出来ずに、みんなバラバラに違うものを買って少しづつ分け合って食べた。 お祭りに慣れていないせつなに楽しんでもらおうと、せつなの皿にはたくさん盛り付けられた。 とても全ては食べきれない。「ラブ、あーん」せつなはラブの口にせっせと運ぶ。ラブの頬に冷汗が流れた。 腹ごしらえが済んだら他の夜店を見て回る。 射的。ダーツ。輪投げ。ヨーヨー釣り。景品に欲しいものがなくて挑戦しなかったが、見ているだけで楽しかった。 そして、ひときわ大きな子供たちの声に足を止める。聞いたことのある名が出てきたからだ。そこは金魚すくいのお店だった。 男の子と女の子の二人。手元にはたくさんの破れたポイが散らばる。あれでは子供のお小遣いはかなり圧迫されるだろう。 ヌシと呼ばれる大きな金魚を狙っているらしいが、見る限りとてもすくえそうになかった。 「ちっきしょー、隼人あんちゃんならこんぐらいわけないのにな」 「今年は来ないのかな? いっぱい探したのにね」 「ねえ、あななたち。隼人って言ったわよね?」 「言ったよ。図体でかくて馬鹿だけど、金魚すくいはすっごく上手だったんだ」 「おにいちゃん口が悪いよ。優しくて面白いお兄ちゃんなの。お姉ちゃんお知り合い?」 「ええ、残念ながら知り合いよ。あの金魚をすくえばいいのね、私にやらせてみて」 手にしたポイは二つ。構造は針金の輪に和紙を貼り付けたもの。水の付加をかければあっという間に破れてしまうだろう。 だったら追いかけるのではなく、待つ。ヌシの進路を予測して頭の位置にポイをそっと沈める。乗った瞬間に水面と平行に滑らせるように持ち上げる。 しかし――後少しということろでポイが破れ逃げられてしまった。落胆する子供に、次は大丈夫よと声をかける。 気をつけるのは尾の動き。全身をポイに乗せては駄目なのだと知る。今度は更に慎重に、頭と尻尾を枠に乗せるようにしてすくい上げた。 店主さんはやられたなあと頭をかきながらヌシを袋に入れてくれた。小さな袋に大きな体、少しの間だけ我慢してねと謝った。 ヌシは赤と白の対照がきれいな金魚だった。サラサリュウキンという品種だと祈里が教えてくれた。 そして子供たちにプレゼントする。今年は隼人は来られないから、その代わりだと言って。 「やった! 姉ちゃんも凄いな」 「ありがとう、お姉ちゃん。でしょ、おにいちゃん」 「いいのよ、大事にしてあげてね」 子供たちのキラキラ輝く尊敬の眼差しに気恥ずかしさを覚える。仲良く手をつないで帰る二人を、せつなは手を振って見送った。 凄い……か。隼人もそう言われていたらしい。ラビリンスで受けてきた訓練。他人を傷付け奪うための技術でも、使いようによっては笑顔を生むことも出来る。 決意を新たにする。今度こそ自分の命を、力を正しく使って生きていこうと。 クローバーフェスティバルもいよいよ大詰め。ラストを盛大に飾る、花火大会が行われる時間になった。 爆音と共に閃光が闇を切り裂く。 幾多の星が煌く夜空も、今夜ばかりは主役の座を奪われる。 一瞬の沈黙の後に開花し、色鮮やかな大輪の華を咲かせる。 次々と打ちあがる花火は、息つく暇も与えず大音響と共に振動を体に伝える。 低空で炸裂する庭園花火。見上げる必要すらなく、迫力を持って見るものに迫ってくる。 直径二百メートルを超える尺球。視界いっぱいに広がる星が球状に飛散する。 網仕掛。遥か上空より、光の雨が滝の如く降り注ぐ。 スターマイン。時間差で連続で爆発し、美しき光の絵画を夜空に描く。 繊細かつ大胆。儚くも激しい音と光の競演。見るのではなく、記憶に焼き付けられるような美しさ。 「ねえ、せつな。花火ってね、一発一発がいろいろな思いや願いをこめて作られているんだって」 「人の手で作られているの? あれだけ大掛かりなものが?」 「うん、長い時間をかけて色んな工夫を重ねながらね。花火職人さんの夢を乗せて咲くから美しいんだって」 ラブがせつなの手をしっかりと握る。そして、ささやく。「いつかあたしたちも、大きな夢を咲かせようね」って。 せつなは返事ができなかった。ただ、強く――強くラブの手を握り返した。 凄い数の花火が同時に上がる。耳をつんざく炸裂音。眩しいほどの強烈な閃光。 無数の色の光が更に次々と変化していく。形を変えながら夜空一面を染め上げる。感動のフィナーレだった。 「美希たん、ブッキー、今日はありがとう。またね」 「ありがとう。本当に楽しかった」 「また四人で見られるなんて思わなかったもの。アタシこそありがとう」 「うん、おじさんとおばさんにもよろしくね」 ゆっくり歩いて家路につく。同じ緩やかな歩みでも、帰りの足取りはなぜか重い。皆、祭りの余韻を惜しむかのように―― 「ただいま、おとうさん、おかあさん」 「ただいま。遅くなってごめんなさい」 「おかえり、ラブ、せっちゃん」 「しっかり楽しんできたかい? 後悔しても後の祭りだぞ」 圭太郎の冗談で苦笑ながらも二人の間に笑顔が戻る。ラブもせつなも、なんとなく元気がなかったので気を使ったのだ。 「まあ、祭りの後というのはそういうものだ。楽しみだった分、終わると喪失感が大きいんだよな」 「ラブは毎年だけどせっちゃんまで。やっぱりお祭りの後は寂しい?」 「はい――少し」 「あはは、今から来年が待ちきれないよ」 本音を語るラブと、嘘を――ついたせつな。 せつなは特に寂しいとは感じなかった。この家で過ごすことこそが一番大切な幸せだから。 戸惑いを覚えるほどに、申し訳ないと感じるほどに、得がたい幸せだと思うから。 元気がないんじゃない。ただ、考え込んでしまっていた。 胸に渦巻く想い。コンサートの時のラブの様子。 手の届かなくなったものを苦しそうに見つめる瞳。伝わってくる激しい喪失感。あれが――夢だと言うの? 花火を見ながらラブが言ってくれた「一緒に夢をつかもう」って想い。答えられなかった自分への歯がゆさ。 夢って何だろうと思う。幸せを導く大切な願い。わかるのは、ただそれだけ。 私の心からの願い。みんなを笑顔と幸せでいっぱいにしたいという想い。これとラブや美希やブッキーの描くものは果たして同じなのだろうか。 わからないから逃げてきた。考えないようにしてきた。そんな気がした。 だから向かい合おうと思った。すぐには見つからなくても、探していこうと思った。教えてもらうものじゃないような気がした。 必ず見つけてみせる。私の本当の夢。夢というものの真実の姿を。ラブと――一緒に。 「ねえ、ラブ! 私――精一杯がんばるわ!!」 「えっ、どうしたの? せつな」 「ふふ、なんでもない」 せつなの表情に明るい輝きが戻る。それはラブに、圭太郎に、あゆみに伝わり、たちまち桃園家に明るい笑い声が響き渡る。 きっと見つかる、この街でなら。ラブや美希やブッキーや、おとうさんとおかあさんと一緒なら。 せつなの決意をやさしく包みながら、幸せの街の一番幸せな日は静かにその一日を閉じた。
https://w.atwiki.jp/love_plus/pages/71.html
ラブプラス問題集 おおよそ、中学~高校生の比較的簡単な問題が出されるようです。 英語 以下の慣用句の正しい訳を答えなさい。A little bird told me that... A.風の便りでは 以下の熟語の正しい意味を答えなさい。 ever after A.その後ずっと 以下の慣用句の正しい訳を答えなさい。apple of discord A.争いの種 以下の熟語の正しい意味を答えなさい。came to a head A.恋が実る 以下の日本語の意味にあわないものを選びなさい。「よくやった!」 A.Just you dare! 以下の日本語に最も近い意味の自動詞を答えなさい。「予約する」 A.book 以下の日本語に最も近い意味を選びなさい。「引退する」 A.get straight 以下の日本語に最も近い意味を選びなさい。「恋に落ちる」 A.become love struck 以下の慣用句の正しい訳を答えなさい「It rains cats and dogs」 A.土砂降りの雨が降る 歴史 享保の改革を行った、江戸幕府の将軍は? A.徳川吉宗 1893年、清朝においてアヘン没収のために広州に派遣されたのは誰か? A.林則徐 アメリカ独立宣言を起草したアメリカ合衆国の人物は? A.ジェファーソン 1492年にコロンブスが到達した島は? A.サン・サルバドル 古典の問題です。「丑三つ」は、現在のほぼ何時頃か? A.午前二時頃 1077年に当時の教皇グレゴリウス7世とドイツ皇帝ハインリヒが争った事件を何という? A.カノッサの屈辱 御成敗式目を定めた、鎌倉幕府の第三代執権は? A.北条泰時 武士としてはじめて太政大臣になり、政治の実権を握った武将は? A.平清盛 織田信長が長篠の戦いで倒した戦国大名は? A.武田勝頼 百年戦争の後に始まったイギリスの内乱は? A.ばら戦争 1881年自由党を結成した人は誰でしょう A.板垣退助 国語 漢字の問題です。この漢字の読みを答えなさい。「拙い」 A.つたない 漢字の問題です。この漢字の読みを答えなさい。「唆す」 A.そそのかす 漢字の問題です。「威儀」という漢字が正しくあてはまる文章を選びなさい。 A.イギを正す。 古典の問題です。この古語の読みを答えなさい。「乳母」 A.めのと 現代国語の問題です。「じくじたる思い」の正しい意味を答えなさい。 A.恥ずかしい思い 現代国語の問題です。「あられもない」の正しい意味を答えなさい。 A.ふさわしくない 古典の問題です。「未申(ひつじさる)」は、どの方角の事か? A.南西 古典の問題です。この古語の読みをこたえなさい。「時鳥」 A.ほととぎす 物理・化学等 橋の上から小石をそっと落としたら1.0秒後水面に達した。橋の高さは何mか。 A.4.9m 100Vの電圧をかけると4.0A流れる電熱器の電力は何Wか。 A.400W DNAを構成する物質は、リン酸・塩基と何か。 A.デオキシリボース 次の空欄を埋めよ。( )は最も軽い気体。 A.水素 高等植物細胞に見られない。動物細胞に特有な小器官はどれか。 A.中心体 次の実験結果で正しいものはどれか。「卵白に食酢を加える」 A.固まる 温度が一定の時、一定量の気体の体積は、圧力に反比例すると言われる法則は? A.ボイルの法則 副交感神経が興奮すると、どうなるか。 A.消化器官が活発になる 数学 100チームが参加するサッカーのトーナメント戦で優勝チームが決まるまで何試合行われるでしょう? A.99 次の方程式を解きなさい。2x-9=3 A.x=6 5kmを10分で走る車の平均の速さは何km/hか。 A.30km/h 正十二角形の内角の和を求めよ A.1800 5x+3=-12を解け A.-3 ある時計は1時間に3分遅れていきます。 この時計を0時に合わせました。 この時計が19時を指した時、何分遅れているでしょうか。 A.60分 2枚のコインを投げたとき、1枚目が表とわかっているときに2枚目のコインが表の確率は? A.1/3 次の計算をしなさい「-6+32÷(-8)」 A.-10 その他 ラブプラス関連問題 ○○たちがつきあい始めた日って覚えてる? A.(それぞれ覚えてるように!) 私の好きな動物はなんでしょう? A.愛花=ウサギ 寧々=たぬき 凛子=猫 私の血液型は何型でしょう? A.寧々=O型 凛子=B型 愛花=A型 私の誕生日はいつでしょうか? A.寧々=4月20日 愛花=10月5日 凛子=8月17日 あなたが出された問題を教えてくださいな Q タヌキは冬眠するの? A しない -- (愛染) 2013-09-21 18 24 50 Q アマチュアでよく使われてたフィルム映画は何ミリ映画? A 8ミリ -- (愛染) 2013-09-24 18 12 06 Q ファミレスで注文とるときに使うハンディの正式名称は何? A ポータブルデータターミナル -- (愛染) 2013-09-24 18 28 45 100vの電圧をかけると4.0A流れる電気圧の電力は何Wか。 -- (高嶺) 2013-10-11 23 19 00 Q:AチームはBチームに7点差で勝ちました。AチームとBチームの得点合計は17点です。Aチームの得点は何点ですか? A:12点 -- (新一) 2013-11-29 22 56 19 however that may be それはともかく -- (名無しさん) 2013-11-30 12 39 09 read a dream A 夢判断をする -- (jean47) 2013-11-30 14 10 52 ルネサンス美術にも影響を与えたとされる「黄金宮殿」を建設した人物は? -- (名無しさん) 2013-11-30 14 23 09 Q渋皮がむける、の意味は Aあかぬける -- (名無しさん) 2013-12-01 20 08 57 Qすべての血液型が産まれる組み合わせはどれ A、A型とB型 -- (名無しさん) 2013-12-01 20 10 02 Q前頭葉の働きで正しいものは A思考 -- (名無しさん) 2013-12-01 20 14 06 Q,陽子、電子、中性子の中でもっとも質量の小さいものは? A,電子 -- (名無しさん) 2013-12-08 15 07 46 わたしの好きなたべもの -- (マナカ) 2014-05-06 23 45 47 丑三つは今でいうほぼ何時の方向か A午前2時 -- (名無しさん) 2014-05-25 04 22 09 竜巻の強度を分類する単位はどれか A藤田スケール -- (名無しさん) 2014-07-04 16 50 01 Q次のうち、ベクトルであるものはどれか? A力 -- (名無し) 2014-08-06 11 24 28 Xsyt背strdytdrstrXztrXgrXyrXyrsrtsyrXtrsyrXsyrsつっsjtうtdytxyrxyrsryxfysyrxrsyrxrysyrxrsryxyrsryxryすtdrydyrdryxyrxrysつxsrydfkygkdhfxgでrwれてtwtrsだえsvんctrsっg -- (名無しさん) 2014-09-13 16 49 35 Q 元素記号「p」とはなに? A リン -- (カンビアッソ) 2014-12-08 00 51 13 Q この中で、私が大好きなものはどれ? A 吸血鬼 -- (名無しさん) 2015-02-22 00 07 41 南海バスに関するクイズです。 次のうち、堺市南区にあるバス停はどれ? 1 堀上 2 伊勢道 3 竹城台口 A 3 竹城台口 1は堺市中区、2は堺市東区にあります。 -- (Nankai_8013) 2015-03-10 21 05 19 名前 問題&正答 すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/437.html
「とりかえっこ」/◆BVjx9JFTno 寝息が、重なっている。 美希たんの部屋。 お母さんが仕事関係の旅行に 行っているので、美希たんの家で お泊まり会になった。 せつなとブッキーは ぐっすり眠っている。 体を起こす。 もうひとつの、起きる影。 寝る前、美希たんとお互いのことを 話してるうちに、エッチな話になった。 美希たんの愛撫で、 悦ぶブッキーの姿。 あたしも、さわってみたい。 あたしと美希たんの心の中に、 悪だくみが生まれた。 とりかえっこ。 美希たんと、寝ている位置を 交代する。 ブッキーの寝顔が、 すぐそばにあった。 たわわな胸が、 パジャマを押し上げている。 裾がめくれ、かわいい おへそが見えている。 ペロッと、なめる。 ぴくんと、ブッキーの体がふるえた。 パジャマの裾から手を入れ、 ブッキーの胸を、わしづかみにする。 手に入りきらないほどの、 たっぷりとした胸。 揉んだり、揺らしたりしながら 感触を楽しむ。 たまんない。 あたしの内腿に、 しずくが垂れる感触があった。 ブッキーの目が、 ぱちりと開いた。 「ちょっ...!ラブちゃ...んん」 唇で塞ぐ。 「んん!...んーっ!」 「ブッキー、あたしとじゃイヤ?」 「ラブちゃん...どうして...」 「だって、あたしもブッキー食べたくなったんだもん」 「でも、私には美希ちゃんが...」 「ほら...」 あたしとブッキーが視線を移した先には 同じように、せつなの唇を塞いでいる 美希たんの姿があった。 「...どして...?」 せつなの声が聞こえる。 「でも、体は反応してるわよ、せつな」 美希たんの指が、せつなの乳首を 優しく弾いている。 パジャマを突き抜けそうなほど、 そこは硬く尖っていた。 あたしの心に、 チクリと痛む感覚があった。 かき消すように、ブッキーのパジャマを たくし上げ、胸に舌を這わせる。 ブッキーの乳首も、硬く立ち上がり、 あたしの舌の上で、ころころと転がる。 「やああん...やめて...ラブちゃん...!」 「でも、ブッキー気持ちよさそうだよ」 「違っ...あうっ!」 「ほらぁ...」 下着の中に滑り込んだあたしの右手は、 茂みの奥にある泉を感じていた。 「美希たん、見てるよ...」 「いや...!いや...!」 激しく首を振るブッキー。 それに反して、右手にはいっそうあふれる感覚。 中指を、入れる。 「ああああっ!」 「ブッキーの感じてる顔、かわいい...」 ちらっと、美希たんの方を見る。 歯を食いしばって、美希たんの愛撫に 耐えているせつな。 せつなの足の間でうごめく、美希たんの手。 蜜が跳ねる音が大きくなっている。 何よ。 誰でもいいの? ブッキーの中に入れた指を、 途中で上に曲げ、上の壁を擦る。 「あっ!あっ!ああん!」 ブッキーの腰が跳ねる。 もう片方の手で、胸を激しく揉みしだき、 唇を舌で舐る。 「イキそうなの?ブッキー...」 「いや...いや...!」 「くっ...あああん!」 聞こえてくるせつなの喘ぎ声が、 大きくなった。 えっ... せつな、イっちゃうの...? ブッキーの中が、 激しく収縮した。 「美希ちゃん!ごめんなさい!ごめんなさい!」 ブッキーが、顔を覆いながら 腰を激しくくねらせ、3回ほど大きく跳ねた。 せつなを見る。 乳首を吸われながら、中を激しく 美希にかき回されている。 「せつな...かわいいわ」 「いや...そんなにされると...もう...!」 「ほら、ラブも見てるわよ...」 「ああっ...!いや!ラブ!見ないで!見ないで!」 せつなの体が弓なりに反り、 大きく痙攣した。 あたしのほおを、 涙が流れている。 せつなが、あたし以外の人に。 あたしだけの、せつなじゃ なくなった。 とりかえっこ、って 軽く始めたけど、 あたしが、人のものを 取るだけじゃ、なかった。 あたしのものも、 人に、とられた。 後悔。 嫉妬。 興奮。 心の中が、めちゃくちゃだ。 ブッキーが、顔を覆って すすり泣いている。 美希たんが、ブッキーを見ながら 泣いている。 せつなが、あたしから目をそらして 泣いている。 4人のすすり泣きが 薄闇の中で響いている。 「...ごめんなさい!祈里!」 「...ごめん!せつな!」 美希たんとあたしは 同時に声をあげ、お互いの 隣に場所を移した。 「ひどいよ...美希ちゃん」 ブッキーの泣きじゃくる声が聞こえる。 「ラブ...こんなのないわ...」 「悪いのはあたしだよ!ホントにごめん!」 すすり泣くせつなを、 ぎゅっと抱きしめる。 「せつなは、あたしのだよ!」 美希たんも、ブッキーを 泣きながら抱きしめている。 「祈里は、アタシのだから!」 「せつな!」 「ラブ!」 「祈里!」 「美希ちゃん!」 泣きながら、夢中でお互いの唇を 吸い合った。 何もかも忘れるように、 夢中で、愛し合った。 声を抑えることもなく、ひたすら お互いの体をまさぐった。 いつもより、強く。 いつもより、深く。 お互いの中で、激しく指が かき回される。 猛烈な興奮の中、あたしは せつなの顔を見つめる。 せつなも目を開き、あたしを見つめる。 「いっしょに...ラブ...!」 「うん...いっしょだよ!」 あたしとせつなは、お互いの目を 見つめ合いながら、激しく跳ねて頂点に達した。 「祈里!アタシもう!」 「美希ちゃん!一緒に!」 美希たんとブッキーも、お互いのを 激しく擦り合わせながら達している。 お互いを寝取られた刺激からか、 興奮がおさまることはなかった。 あたし達は、汗だくになって もう何度目か忘れるほど、体を跳ねさせた。 外が見えないほど、ガラスが曇っている。 むせ返るような熱気と、匂い。 「...ちょっと、クセになるかも」 言った途端、あたしの頭に 3つのゲンコツが落ちた。 複数8は、その後のーー
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/724.html
『PARADOX』/Mitchell Carroll 緑が生い茂る――川はせせらぎ、 青い空には雲がゆっくと流れ、鳥が何羽か群れて飛んでいる。 緩やかにそよぐ風は、木の葉や小さな草花を優しく撫でて揺らす。 ここは、ラビリンス。 かつての機械の山は次第に減り、 暗くグレーがかった世界は、色鮮やかに変貌した。 「――ラブにも、ラブ達にも、見せてあげたいわ....この風景を」 一面のクローバーに彩られた小さな丘で、せつなはつぶやく。 かつて訪れた四つ葉町にも似たような場所があった。 あの大きな丘と比べれば小さいが、 それでも、町全体を眺めることが出来る。 せつなのプリキュアとしての使命は終わった。 アカルンの力を使えない今、ラブたちに会う方法は無い。 奇跡でも起きない限り――。 せつなは家に帰り、また、手紙を書き始めた。 送り先は決まっている....だが、届かない。 届けるすべが無い。 相手に届かない手紙を、時々こうして書いている。 引き出しには、その手紙がもう、溢れている。 「いつまで私はこんなことを....」 手紙のいくつかには染みが付いている。インクが滲んでいる個所もある。 それでも、文字にすることで気が晴れる....こともあれば、 かえって辛い気持ちになってしまうこともある。 その日もせつなは手紙を書いた。 四つ葉町のあの丘で、ラブと待ち合わせる約束の手紙。 手紙を書き終えた頃、空は夕焼けだった。 偉大な太陽が沈んでいく....暖かさとは、しばしのお別れ。 ここのところ、寒さは感じなかった。仲間にだって恵まれている。 だが、別の寒さが、寂しさが、時折彼女を襲った。 どんなに着込んだところで、紛らわせられなかった。 原因は彼女にはわかっている。そしてその解決方法も。 だが、やはりそれは叶わないのだ。 ――少し窓が震えている。 「地震....?」 せつなは窓を見る――その窓から見える光景は.... 空に巨大な黒い渦が現れ、間も無く突風が窓を叩き突ける。 粉々に割れたガラスは部屋中に散らばる。 「イースっ!!大丈夫かっ!?」 「ウェスター!ノックぐらいしなさいよ!」 同じ館に住んでいるウェスターがせつなを心配して ダンベルを片手にやってきた。 「何だあの黒い渦は....!?」 「ええ、凄く嫌な感じがする....」 赤黒い光―― それが一直線にウェスターを貫く。 窓の外からの攻撃。 「グッハァ!!」 「ウェスター!!」 急いでせつなはウェスターの看護に当ろうとした――が、 ウェスターの全身を包んだ不気味な光はせつなを跳ね返した。 「キャッ!?....何、これ....」 「イース....外....窓....」 振り向いたせつなの目に映るもの―― 赤い髪の少女....と、その後ろに、青い髪の少女。 氷のような目。 「お前を倒しに来た、イース」 「誰だっお前達は!」 「冥土の土産に教えてやる。私の名は....霧生薫」 「....霧生満だ」 「なぜわたし達を狙う!?」 「それが命令だからだ。わたし達は命令に従うのみ」 氷のような目....氷のような声....ただ命令に従うのみ.... せつなはかつての自分を見ているようだった。 恐怖――自分が他の者達に与えていたものはこういうものだったのか、と、 一度決着を着けたはずの心の傷がまた膿みはじめた。 「消えろ、イース」 再び赤い閃光――それをせつなは持ち前の瞬発力で躱した。 すぐさま反撃の右の拳を撃ちつけるも、満に易々と受け止められてしまった。 「何だそれは?変身しろ、イース。その姿のままでわたし達を倒そうというのか?」 「なめられたものね....もういいわ。満、さっさとこいつを倒して、次の目的地へ 向かいましょう。――四つ葉町へ」 「何ですって....!?今、何と言ったの!?」 「四つ葉町だ。お前には関係あるまい」 「関係あるわよ!!なぜ四つ葉町を狙うの!?」 「わたし達は命令に従うのみだ。何度も言わせるな」 自分には今プリキュアに変身する能力は無い。 だが闘うすべが一つだけあった。 あの姿には変身したくない。 だが変身しなくては、守れない。 大事なものを守るために―― 「スイッチ・オーバー!!」 「....ほう、余裕だな。その笑みは何だ?」 薫の御指摘どおり――せつなは自分でも驚いていた。 強烈な懐かしさが全身を覆い包む。 無機質な感覚、かつての自分。 「....こんなところ、ラブに見せられないわね」 不敵に笑うと、光の速度で満に掌底を喰らわす。 「グッ....!!」 「....速い!」 プリキュアとしての鍛錬で培ったものが、今もこうして活きている。 「ふふふ、まだこんなものではないぞ!(口調まで....)」 せつなの――いや、イースの乱打が薫に降り注ぐ。 防ぎきれなくなった薫が闇雲に出したパンチは、 虚しく空を切り、イースのカウンターを浴びる。 止めを刺そうとするイースの動きが....止まった。 そして全身から噴出す嫌な汗。 ひとつ大きく鼓動が鳴る。 「場所を変えましょう。ここじゃ狭過ぎるわ」 薫の冷たい声。 本気にさせてしまった――それは後悔ではなかった。 不思議と高揚するイース、姿こそ難あれど、 大切なものを守るために闘う自分自身の姿に.... 「酔っているというのか....?」 自問自答するイースに、満からの提案。 「あの丘へ移動しよう。あそこは広いから、思う存分闘える」 生まれ変わったラビリンスが見渡せる丘。 もし自分が負けてしまったら、ここはもう―― 「感傷に浸っている暇はないぞ」 打ち込まれる満の拳、受け止めると―― 背中が熱い。薫の手から放たれた閃光がイースの背に直撃する。 満と薫の打撃と閃光が、容赦なく、絶え間なくイースを襲う。 あっという間だった。 「他愛ない。私達二人に掛かればこんなものね」 「さっさとこの町を潰して、断末魔の悲鳴を四つ葉町への手土産に してあげましょう」 「....させ....ない」 「ほう、まだ動けるのか。闘えるのか?そんなボロボロの体で」 上半身を起こすのが精一杯だった。 守ろうとする意志、せめてそれだけでも―― 「情けない格好だな。今、楽にしてやる」 満の手から放たれた赤黒い閃光は、真っ直ぐにイースへと向かう。 「終わっ....た」 「まだ終わってないよ、せつな!! 「....!?嘘....でしょ!?」 目の前で、閃光からイースを守っているのは、 自分と同じような格好に身を包んだ―― 「ラブ!?」 「たぁぁぁーーーーっ!!」 閃光を満と薫の方へ跳ね返す。二人はそれを同じ技で相殺する。 「せつな、大丈夫!?」 「ラブ、どうしてここに....それにその格好....」 だが一番の不思議は――自分の体に力が漲ってきたこと。 「....話は後で訊くわ!今はこいつらを倒すことが先決よ!行くわよ、ラブ!!」 「OK!せつな!!」 満と薫の前に、イースとラブが立ちはだかる。 一発一発が――重い、そして強い。 壊そうとするものを、守ろうとするものが上回る。 「何なんだこいつらは....!?」 「どこからこんな力が....何か....巨大なものに覆われるようだ....」 「許さない!!....せつなをこんなにして、それに、 あなた達を闘わせてる奴も許さない!!」 「わたし達は命令に従うのみだ!お前に首を突っ込まれる筋合いは無い!!」 「あなた達の拳からは....苦しみしか伝わってこない!!」 「....引き上げるわよ、薫」 「....そうね、満」 突風が吹き荒れると、二人は消えた。 「....ラブ、改めて訊くけど、どうやってここに?それにその格好は....」 「うん、お昼寝してたらね、夢を見たの。せつなが、二人組に襲われてる夢を.... それでね、助けたいって思ったの。そしたら....気付いたらここに」 「何それ、奇跡ね。....!まさか....」 「よ~さん食べるなぁ、シフォン。なんや一仕事終えたみたいな せいせいした顔して....」 「(プハー)らぁぶ、せつな、いっしょ!」 「ドーナツもジュースも空やんけ~兄弟!ドーナツ追加!あとジュースも!」 「あいよ!この試作品のドーナツ食べてみてよ。味は保証しないけどね、グハッ!」 「な、何やねん、この色....」 「....で、その格好は?」 「へへ~、せつなとお揃い~....」 「ちょっとラブ、大丈夫!?」 せつなには慣れ親しんだ格好だが、ラブにとってはかなり 負担がかかるものだったようで、 無機質なエネルギーはラブの体力を奪っていた。 せつなにもたれ掛かるラブ。 冷たい衣装の奥からでも、伝わり合うぬくもり。 「....少し、横になってもいい?せつな」 「ええ....」 三日月の下、丘の上―― ラブはイースの膝を枕に、少しの間、目を瞑った。 END